『……慧は、特別な存在だ。それは知ってるだろう』
「はい」
『だから正直なところ、慧が婚約者を愛せば愛するほど、彼女は長生きできるかもしれない。データはないが……。慧に流れる神職の血は確実で、神宮寺の血は御園を抑え込む唯一無二だとされているだろう』
「慧の血を、彼女に輸血すれば」
『それだと危険性が高すぎる。─とりあえず、少し待て。調べてみる。昔、暴走化したものの番がいない御園の直系を、神宮寺の直系の巫女が閨を共にしたことで治まったと聞いたことがあるが……この話もあくまで言い伝えでしかないから。にしても、タイミングが良く電話をかけてきた婚約者か……お前は彼女に個別で接触している人間がいないか、今日、彼らが出向いている施設に連絡して、御園の権限で閲覧しろ』
「防犯カメラを?」
『ああ』
「わかりました」
陽向は相馬に『焦るなよ』と一言言い残すと、電話を切った。相馬が不在の今、本家を切り盛りしてくれるのは、陽向や祖父だろう。
「相馬、説明しろ」
薫が聞いてくる。
皆の空気は張り詰めていて、各方面に強い幼なじみは心強いなと思いつつ、適合者についての話を深めていく。
「急に、相馬は焦り始めたよね。どうしたの?」
まだ場の空気についていけていない光輝が首を傾げると、叶夢が光輝に説明してくれた。
「ここに来た最初、俺が人体実験をしていたことを掴んだ。昔、この街のとある資産家が女性の遺体をそのままエンバーミングして人形のように飾り、愛でていた事件があったことを知り、俺はこの街に来たんだが……」
「聞いたことある。歴史の講義で」
「だろうな。歴史に残る大事件だったから。国も関係しているという噂が今も消えないくらい、根深く、闇に葬られた話だ。人体実験では理想の人間を作ろうとしているとか、病気にかからない人間とか、とりあえず色んな噂があったが、百聞一見にしかずだから。調べていたら、その中で、昔、十数年前に何度目かの爆破が起こり、施設は廃墟となったことを聞いた。でも、おかしいんだ。俺の式神には人の姿を捉えている。しかし、目の前の廃墟は誰もいない。まるで魔法にかかっているかのようだと思った矢先、家に一通の手紙が届いた」
「手紙?」
「ああ。─要約すれば、廃墟に興味を持つなと。そして、その代わりに街の子供たちを守れと。そこに書かれていた名前のひとつが、黒宮茉白。適合者だ」
「その適合者ってなんなの?」
「それに関しては、俺も分からなかった。相馬のこの様子じゃ、人体実験が行われていたことは把握していたとしても、御園が関わっていることは知らなかったんだろうな」
叶夢の言う通りである。
まさか、そこに自分の家系が関係しているとは思うまい。
否、大きな家なのだから、有り得ない話ではない。
有り得ない話ではないのだ。
歴史も長く、その血を引くものは多いのだから。しかし。


