世界はそれを愛と呼ぶ




「…………もしかして、黒宮のか」

何を察したのか、袋から飲み物を取り出しながら、唐突に当てに来た男は。

「じゃあ……」

ブツブツ言って考え込む。
自由人。そして、明らかな天才型。
サボり魔で、仕事がしたくない男は流れで保健医となり、この街で数年、保健医として引きこもっていた。

常に顔色が悪く、白衣を着ているため、一時期、『ハロウィンの仮装』と間違えられたと聞いた時は、光輝達は腹を抱えて笑っていたが、今は不健康そのものの見た目ながら、その瞳は真っ直ぐで。

「─相馬」

急に乱入してきたかと思えば、自分のそばを飛ぶ式神を捕まえて、男は自分自身の長い前髪を掻きあげる。

「例えば、だ。ある子供が怪我をして、血が必要になった。合う血液は見つかったが、それが御園の直系の血だった場合……それを輸血された子どもはどうなる」

「……」

それはあれか。結が、柚希に受けたような関係性か。
御園の化け物の血が濃い血筋に生まれた柚希の習性は根深く、今も尚、彼女の娘、孫へと受け継いでいる。

─確実に薄まっているが、それは消えないまま。
結に子供ができれば、その子もまた、結には劣れど、超人的な身体能力を発揮するだろう。

「わかるか」

「……わかるけども」

あまり、口にしたくはない。
普通の人間に、化け物の血を入れるんだ。
それが上手く適応すれば、化け物になれるだろうな。
でも、適応しなければ─……。

「命を落とす」

それも、とても残酷な身姿で。

「だろうな」

「だろうなって……そもそも、茉白が黒宮だと知っていたのか。あの子は」

「知らないわけないだろ。この街に来て、何年経つと思ってる。……あの子は犠牲者、そして、適合者のひとり。ここに来てから密かに、ずっと調べていたんだ。お前と同じ匂いがするから」

そう言って、式神を燃やした男─神宮寺叶夢(カナメ)は、

「この街に来た日、ちょうど事件があった。この街じゃないぞ。隣町で……不審死が相次いで、ニュースで連日、取り上げられていた。見つかった仏様は無惨な姿をしていたが、凶器は不明。外傷もなく、脳や内臓が─……」

言いかけて、叶夢は口を噤んだ。
ここで事細かに話して耐えられるのは、一部だけ。

特に、光輝や千歳に聞かせる話ではない。
相模や甲斐は、薫と相馬の付き人だから、惨憺な状況も慣れているかもしれないが、ふたりの弟でも千歳はまた学生の青少年。

それをギリギリで思い出した叶夢は、何故か咳払いをして。