世界はそれを愛と呼ぶ



─自分は特殊で、凄く恵まれた環境に生まれた。

仕事が忙しくて、基本的に家にはいないが、それでも仲の良い優しい両親に、面倒を見てくれる、お母さんの双子の妹夫妻。

年の離れた従兄とは少し噛み合わない部分もあったけど、それでも、時折、頭を撫でてくれる瞬間が大好きだった。

美味しいご飯。暖かい場所。私が笑えば、皆が笑う。

お父さんの親友の子供だというお兄ちゃんに、従兄(おにいちゃん)、そして、近所に住むお姉ちゃん。
街の人々はみんな優しくて、お菓子もらったり、遊んでもらったりして、私はあの街を愛していた。

皆に愛されている自分のことも、愛していた。
何も知らなかったから、私はずっと幸せに笑ってた。
私が笑うことで、誰かが笑うことが嬉しかった。


─その幸せは、私が5歳の頃に崩れ落ちる。
全てが壊れてしまった。私が、壊してしまった。

『彼が、君のお父さん?』
『うん!』

“約束”を守ったら、全てが壊れて崩れ去った。
─あんなことを、言わなければ良かった。
私があんなことを言ったせいで、認めたせいで、そのせいで、従兄は父親を失った。母親も行方不明になって。

『……寂しい』

従兄から、私は全て奪った。全てを奪って、笑えない。
笑えない。笑えない。笑えるわけが無い。
だって、だって、だって、だって、私のせいで。
私のせいで、あの人は死んでしまった。涙が止まらない。
─泣く資格なんてないのに。

あんなことを言わなければよかった。
あの日、家から追い出さなければよかった。
ずっと面倒を見てくれるふたりに、結婚記念日だけでも、なんて、そんなこと考えなければ。


『お前は、兄達から父親を奪ったんだな。なのに、お前は両親に愛されて、大切にされて生きているんだな。なんて狡いんだ。怖い子どもだな。従兄の前に、お前のもう1人の兄の父親は、お前のせいで死んだのに』


…………嗚呼、耳鳴りがする。煩い。煩い。煩い。煩い。


「………………っ、はっ、はぁ、……最悪」




─幸せが崩れた日から、11年。
少女は“外の世界”で1人目を覚まし、顔を覆った。