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「仕事をしたい?」
私は仕事から帰って来たシオンさんに、夕食の準備をしながらそう言った。軟禁状態で仕事をするのは不可能だ。シオンさんが出社すると、玄関のドアに鍵がかけられ、外に出られない。ここはタワマンの一番上だし、他のところからも、逃げられない。だから、直接交渉するしかなかった。
「一年もここで生活してたから、体がなまっちゃって。仕事したいなぁ、って思ったの」
「でも、リイナちゃんはよく料理や家事をやってくれてるよ?それだって大変なのに·····」
「家事は大丈夫。もう慣れたし。でもね、毎日退屈で·····。何かに取り組んでいたいんだよ」
「それじゃあ·····、家でできる仕事はどうかな?パソコンもあるし、今はホームワークもたくさんあるだろうし」
「·····外に出るのは、ダメ?」
優しかったシオンさんの表情が変わった。私の方へ近づき、強く抱きしめる。
「ダメだよ」
「でも·····」
「リイナちゃんはずっとここに居ていいんだよ。鳥になってもいいって、言ったじゃないか」
「でも、でも·····」
私は、シオンさんの胸の中で、涙を溢れさせてしまった。
「愛人なんて嫌だよ。シオンさんとそんなふうになりたくないよ·····」
つい本音が、出てしまう。シオンさんが他の女性と結婚してしまうと思うと、耐えられなかった。



