世にも稀な結婚物語~妻は押しが強い~

見ると、通りに店を出しているパン屋の店主のようだ。
「はい、そうです」
彼女が答えると、彼は驚いた顔をした。
「レオラディアちゃんじゃないか。君もとうとう結婚か。早いもんだねえ」
そう言った店主がこちらを見て固まる。
「......何か?」
「っあ、いや」
露骨に言葉を詰まらせる彼を見てると心が折れそうな気がしてくる。無言の気まずい空気。まあ、悪名高い「冷徹無慈悲な参謀」だから......。本当、なんでこんな噂が立ってるんだ......。
「あの、ご婚約おめでとうございます...」
「あ、ありがとうございます......」
気まずい。何を言おう。
「シルベントレ様が結婚相手を募集されていると知った時、すごく驚いたんです。ずっとお慕いしておりましたので」
「「えっ」」
そうなのか?私、そんな人間だったっけ?人に好かれるようなことしたことあったか?
「私のどこがいいんだ?」
パン屋殿、頷かないでくれ。傷つく。
「三年前、国の財政危機に陥った時のこと、覚えてらっしゃいますか?」
「公務員の給料を大幅に減給したらどうかと私が提案した時のか」
「はい。国のために働く多くの人の給料を減らしたと、非難が大きかったですよね。でも、シルベントレ様はご自分の給料を他の誰よりも減らしてらっしゃっいましたね」
そんなこともあった。財政担当でもない私の発案が通ったのは、他に案がなかったから。あのオレガリロすら何の案も浮かばなかったから。
「それが参謀様が冷徹と言われる一つです......」
パン屋殿が気まずそうに言ってくれた。それか、なるほど。
「有難うございます。自分でもその名前の由来が分からなかったものですから。あれが理由だったのか」
そう言うとパン屋殿はとても驚いた顔をした。
「いえ。まさか気にされてたとは」
思わず笑うと少し、空気が和んだ気がする。ふと、レオラディア殿に腕を引かれる。
「シルベントレ様の隣にいられるなんて、一生ないと思ってたんです。でも、叶ってしまいましたし。ちょっと欲張りますね」
えっ?
「シルベントレ様。どうか、私と結婚していただけませんか」
片膝をつくプロポーズ。彼女は私の手を取るとそっと微笑んだ。