世にも稀な結婚物語~妻は押しが強い~

 ウサギ、イヌ、ネコ、トカゲ。ここは魔族と呼ばれる、獣人たちの国だ。山を越えた向こうには人族だけが住む国があるんだとか。彼らは種族差別が激しいらしく、自分たちと姿の違う者をものすごく嫌うと聞いたことがある。本当なわけがない。だったらただの馬鹿だ。
 それはさておき、今日も仕事の時間だ。毎日大量の食事を作らなければならないのだから、休んでる暇はない。
「レオラディアちゃん、スープの味付けお願いできるかしら?」
「はーい」
呼ばれて厨房の奥へ進む。
「後でこっち手伝ってくれない?」
「おい、忙しいの見て分かれよ」
「そのキノコこっちにまわしてちょうだい」
「ほい。そのハーブこっちにくれ」
覚えきれないほどの同僚たちの会話を聞きながらスープ鍋のところまでたどり着く。沸々と泡を立てているクリームスープに玉杓子を入れる。
「もう少し刺激が欲しいですね」
美味しいけれどあっさりとしすぎている。そろそろ暑くなる時期だし、辛さがあったほうがいいと思う。
「棚のスパイス一式、ください」
とってもらったスパイスの箱から二つ三つ選んで、適当に振る。量は経験と感覚だ。そして、もう一度味見をする。
「いい感じにできたと思います。味見していただけますか?」
そう言えば、私を呼んだ先輩料理人は軽く匂いを嗅いでスープを口に運ぶ。
「ん-、美味しい。あなた、やっぱり料理上手いわねえ」
「美味しいですか?良かったです!」
人が美味しそうに自分の作ったものを食べているのは本当に見ていて嬉しい。本当に、料理人という職業を選んでよかった。しかも私ちょっと才能あるっぽいのが余計に嬉しい。先輩は顔をほころばせている。
「ね、聞いた?今度の結婚祭の主役」
そして急に話を変えるし。今日の話題は次の結婚祭か。誰が主役なんだろう。知ってる人かな。ほんとこの先輩噂好き。
「あの参謀長のシルベントレ様らしいよ」
「え」
え?
「どうしたの?急に固まったりして」
「参謀長様、結婚されるんですか......?」
「そうらしいわ。あの参謀長様がねえ......」
先輩の含みのある言い方に苦笑いを浮かべる。
 参謀長シルベントレ。国王陛下に直にお仕えしている方々の一人。角ばった眼鏡と頭の下でまとめた黒髪がトレードマーク。いつも鋭い目をしているせいか、とても冷徹との噂が立っている。でも、それは何かの間違い。あの方は心優しい人だ。
「レオラディアちゃん、このスープ持ってってくれる?」
「はい。食堂でいいですよね?」
「そうそう。今日は当たりの日になるわねえ」
先輩の声を背中に受けながら、私は鍋を抱えて食堂に向かった。