廊下を歩いてると、憧れの彼が向こうから歩いてきた。
別の部署の彼。こんなところで会うなんて、不意打ちだよ。
ドキドキ。
心臓が飛び出しそう。
声をかけるなら、誰もいない今しかない。

でも!やっぱり声なんてかけられない。
向こうは私のことなんて知らないだから。

今すぐ逃げたい。いやいや、不自然すぎる。
このまま、顔を下にむけて、すれ違ったほうが自然だよね。

彼と、すれ違うまで、あと5歩。
あーーー!!もう!すれ違うだけで緊張するなんて、小学生か私(笑)

あと3歩。
落ち着け、落ち着け。大丈夫。あっ!!でも、すれ違いざまに、挨拶はしないとね。

あと2歩。
挨拶をしようと思わず顔をあげたら、彼と目が合った!

「あ、えっと、川田さん!お疲れ様、です!!」
ぎこちない、震えた声だと自分でも分かった。
恥ずかしい!!逃げたい!

彼は、にっこり笑って
「お疲れさま、谷山さん。」

っ!!
私の名前、知ってる?!
「あっ、あの、私のこと、知ってるんですか?」

「もちろん。知ってるよ。君は覚えてないの?」

えっ?どういうこと?えっ?
パニックになってる私をみて、彼はクスクス笑いだした。
「おーーい。川田、会議始まるぞ!」
遠くから彼の同僚が呼んでいる。

「またね。谷山さん」
彼は笑って、颯爽と立ち去った。

私が川田さんと出会ってることを忘れてる?
そんな馬鹿な…
私はいつも川田さんを遠くから見ていただけ。
直接、関わったことなんてないはず。
関わってたら、覚えているもん。

でも…、彼は私の名前を知っててくれた!
それだけで、すごく嬉しい。