子猫令嬢は婚約破棄されて、獅子となる

 ミカエラと年がそう変わらない公爵令嬢が三人いる中で、リディが選ばれたのは、彼女一人だけが『獅子』の加護を持つ者だったからだ。
 リディの二歳年上のミカエラは、彼女の美しい紫の瞳を気に入った。
 しかし、その寵愛は段々薄れていくこととなる。
 リディは非常に思慮深い性格であったが、ミカエラはそれを「内気」「弱気」とマイナスに捉え、彼女を否定していった。

「たくっ! お前はもう少し明るく振る舞えないのか!」
「申し訳ございません」
「そんな貧相な体で明朗さの欠片もないお前は、まるで捨てられた子猫のようだな!」

 この時のミカエラの発言から噂が広がり、学院では密やかにリディは『子猫令嬢』と呼ばれていた。
 それを聞いた大人たちは可愛らしいものだと笑っており、『子猫令嬢』が悪口の一つであることに気づく者はいなかった。
 学院の者たちは公爵令嬢であるリディを大っぴらにそう呼ばないが、陰で皆そのように嘲笑っていた。
 もちろんリディは、そのように自分が陰口の対象になっていることを知っていたのだが……。

(今日もひそひそ話されていたわね)