感情を込めたアルペジオの余韻が消えると、すすり泣く声に気が付いた。あ、何人か泣かしたっぽい。心中で“よし”と呟いて顔を上げれば、ピアノ学科の1年が「あの人かっこよくない!?」と涙混じりに騒いでいる。それにも内心ガッツポーズ。

 椅子から離れて深く深くお辞儀をすると、胸に抱えた相方に指が当たり、シの音が鳴る。“よくやったな”と言われているような気がして、“当然だろ?”と返してやった。拍手の大雨に包まれながら、俺は元来た道を歩き始めた。



「──銀平、お疲れ。スゲー良かった!」



 伸びてくる掌に、自分のそれをパチンと当てる。相手の顔は、色々な感情が混ざっていて何とも言えない顔をしていた。“コメントのしようがない”ってこのことか?

 泣いたのかよ、とツッコむことをやめて言葉を待つ。見せてみろよ、お前の意志を。



「……俺、絶対デビューするわ!そんであいつに後悔させてやる!!だから頼むぜ?相方!」



 この調子なら、多分大丈夫だろう。俺は笑って、要の肩をポンと叩いた。

 あの日のことを、この曲みたいにいつか歌えるようになった時。俺達はきっと、最高の毎日を生きている。



fin.