友人達はわたしが殿下に頼まれてこういうことをしていると知らないし、早くこの茶番を終わらせたい。殿下からも何も言われていないし、進展があったかどうかぐらいなら聞いても大丈夫だろうか。



「トリシャ」


「あら、殿下」



噂をすれば、というやつだろうか。偶然とは言えタイミングの良いことだわ。


周りに人気がないことを確認しつつも念のためにあまり会話は交わさずに生徒会室に並んで向かう。この際お互いとも無表情である。たまにすれ違う生徒から微妙な視線を向けられるが気にしない。


社交に出れば嫌でもこういう視線に晒される機会は増える。それにいちいち反応していては精神が保たないのだ。まぁもともと王子殿下の婚約者になろうとする人間なんて肝が据わっていないとできないことなのだろうけれど。


人のいない生徒会室に入ると少なからず肩の力が抜けたようで顔を合わせて苦笑する。


わたしがお茶の用意をしている間に殿下は何かしらの資料を見ながら考え込んだり満足そうな笑顔を浮かべたりと忙しそうである。本人は楽しそうで何よりね。



「そういえば食堂でのやり取り、あれは良かったな」


「あぁ、あれですか」



殿下の言うやり取りとは例の如くテンプレートなものだがヒロイン(仮)一同が食堂でやたらべたべたと殿下に纏わりついていたのを諌めたことを言っているのだろう。



「割と常識的なことしか言っていないので悪役令嬢かと問われると若干首を傾げるが、あの扇の使い方、相手を蔑むような言い方と冷めた視線が悪役令嬢感満載だったな」


「………褒めてますの?」


「これ以上なく褒めているだろう」