「そうだな…家格なんかも理由にあるが、一番の決め手は直感だな」
「…………直感、ですか」
ちょっと想像の斜め上の回答だったのでわたしも微妙な反応をしてしまった。いや、まさか何よりも国が一番大切ですと迷いなく言うであろう殿下がそういうあやふやなもので大事な選択をするとは思ってもみなかったもので。
思わず身体を起こしてまじまじと殿下を見つめてしまった。ついでに口付けのことを思い出してしまったのは自損事故である。
目線を彷徨かせてしまったわたしの頬に温かな手が触れる。柔らかな苦笑を浮かべる殿下の瞳にじわりと滲む熱を見つけて仕舞えばもう取り繕う余裕もなく一気に頬が火照る。ただでさえ整った顔立ちは心臓に悪いのだから勘弁してほしい。
「確かにあの茶会ではトリシャ、君以外にも家格の合った令嬢や利益に繋がった家の者もいた。だがそもそも私が自身の伴侶に望むのはそういうものではなかった」
幼い頃から王族として、第三王子として生まれてきた者として恥じない教育を受けてきた。そして自分の役割を知って、自分でも、自分だからこそできることがあるのだと学びを深めるごとにそうできる自分が誇らしかった。
この身体に流れる血も、家族も、立場も、手放し難いかけがえのない私の財産だ。
反面、どうしても私を兄達を蹴落として上に立つための傀儡として利用しようとする派閥があることも理解した。決してそれに与するようなことはしないがそういう考えを持つ人もいるのだと心に刻んだ。
自分の婚約者を決める時、どういう相手が良いのか悩んだ。家族は私自身で決めていいと言ってくれたが、逆にそれが難題でもう一層両親が決めてくれればいいのにと投げやりな気分もあった。
そんな時にあのお茶会でトリシャと出会った。なんの前置きもなく私を慮ってくれた言葉に正直に言えばびっくりした。まさか直球で大変じゃないかと聞く令嬢がいるとは。
いや、そういうことを言って、だから自分が側で私を癒したいだの力になりたいだの下心満載で言ってくる者はいたが、純粋に私のことを考えて言ってくれた人は初めてだった。


