婚約者に悪役令嬢になってほしいと言われたので




普段は来られない場所、綺麗なドレスを着て青空も綺麗で、薔薇もたくさん咲いて花びらが風で舞う。まるで自分が特別な存在になれたみたいで有り体に言えば浮かれてしまっていた。


控えめに、けれど確実にはしゃいで回っていた時に薔薇の生け垣から出てきた殿下にとてもびっくりしたことを覚えている。自分がはしたないことをしていた自覚もあれば油断もしていた自覚もあったので尚更。


近くで見た殿下は子供ながらに凛々しく整っていてあんなに人に囲まれてきゃあきゃあ言われることも納得の美貌だった。


そこで初めて挨拶をして、他愛もない話をして……今思い返してみればわたしもそこそこ失礼だったのでは、と思わないでもなかったり。何せ初対面の殿下に対して「大変ではないですか?」と言い放ってしまったのだから。


……言い訳をしてもいいのならば、殿下と話をしていた時に一番に頭の中に浮かんだのが先ほどのたくさんのドレスに囲まれていた姿だったのと、ちらほらと聞こえる第三王子ではスペアのスペアにしかならないという下世話な話だったのでつい気になってしまったのだ。


わたしは両親に自分の思う通りにやればいいよと、自由度が高かったのもあって、殿下の生き方はとても窮屈で居心地の悪そうなものに見えたから親切心だったのもある。今ならば声を大に出して余計なお世話というのを知っているかと自分にコンコンとお説教をかましたいところだけれど。