身体を引き寄せられて温かな腕に抱き込まれたことに気づいたときには、投げられた小瓶の中身が殿下にかかっていて血の気が引いた。小瓶の中身の匂いだろうか、むわりと甘ったるい香りが鼻につく。
急に力が入らなくなったのか膝をつきそうになる殿下の体を必死に支えるが残念ながらわたしは平均的な筋力しかないため2人揃って床に座り込んだ。
「殿下…!!大丈夫ですか?!どこか、お身体に異常は…っ?!」
「…っ、く、大丈夫だ…っ」
「ですが……っ」
明らかに呼吸が荒くなっているし触れた身体は体温が上がっている。ポタポタと額から落ちる汗を慌てて手のひらで拭うとその手を強く握られた。痛いぐらいに強く握りしめられた手が殿下の苦しみそのもののようで胸が締め付けられる。
本当ならば、わたしこそが殿下を守らなければならないのに、あの時一歩も動くこともできずに殿下に助けられたばかりか害を届かせてしまった。
後悔や罪悪感が胸を刺し、じわりと涙が滲む。
周りが慌てて医者を呼んだりジーグ男爵令嬢を取り押さえて小瓶の中身のことを尋問したりと動く中で、ただ動揺して情けなく震えている自分の無力さに唇を噛み締める。
「、っは……っ、トリシャ、離れてくれ…、」
「ですが……っ、」


