元から打ち合わせでもしていたのだろう、殿下が手を挙げると衛兵がヒロイン(仮)一行を取り囲む。取り巻きの何人かが抵抗したようだがすぐに抑えられてしまった。まぁ本職ですものね。
ヒロイン(仮)を守ろうと必死になって声を上げている姿は実情を知らなければ健気で愛の証明のように見えるけれど、実際は薬物によるものなのよね…しかもヒロイン(仮)であるジーグ男爵令嬢はそちらを一瞥もせずにこちらを睨みつけている。
そんな彼女の様子にも気づかずに手を伸ばしている彼らの姿に哀れみを抱いてしまう。わたしが考えることではないが彼らは責任を取らなければならないとは言え、不可抗力な部分もあっただろう。そこら辺は殿下と陛下の采配に委ねることしかできないが情状酌量の余地があることを祈っておこう。
それにしても、それなりの時間をかけたにしては思ったよりも呆気ない幕引きだった。何事もなかったのは良かったけれど、なんて思ったのがいけなかったのだろうか。こういうのを小説ではフラグが立つと言うらしい。
拘束されることに抵抗するようにジーグ男爵令嬢が片手を上げる。その手が日の光に反射してチカリと光ったかと思えば、何かが勢いよくこちらに投げられた。
思いもよらないことにただわたしは動くこともできなくて。
「トリシャ!!!」


