無表情のまま淡々と何故か大盤振る舞いで褒められたので脳の処理が追いつかなかった。気の抜けた返答になってしまったけれどおおよそ他の人達も頭の上に「?」が浮かんでいるのでわたしにまでは気が回っていないだろう。


さりげなく周りだけではなく殿下の横や後ろにも視線を向けるとそちらも唖然とした顔や困惑を顔に貼り付けているので視線を戻しておく。どうやら彼らにとっても予想外のことだったらしい。



「だからこそ、私は失望した」



これは多分作戦の一つなのだろう。あぁ、成る程上げて落として他の人の油断を誘うのかと冷静な心は判断するけれど、殿下の声は紛れもなく本気の声で嫌な感じに心臓が跳ねる。


一瞬の動揺に表情が強張るがすぐに立て直す。いけないわ、こんなことで狼狽えていたらこの先の魑魅魍魎跋扈する社交界なんて生きてはいけないもの。いつもより表情を作ることができていないのは知らず知らずのうちにわたしも緊張していたからかしら。


まだ不自然に跳ねる心臓を意識的に宥めつつ次は何をするのかとゆっくりとその距離を縮めてきた殿下を見つめていると、殿下はわたしの肩を抱き寄せてヒロイン一行と向き合うようにしっかりと立ち直した。



「殿下………?」


「あぁ、失望したとも。これ程の努力を積み上げて私の隣に今も立ち続けようと覚悟を持った、私が認め、選んだ自慢の婚約者をこれ程までにこけにされたのだ。脳味噌が沸騰しそうなほどの怒りに震えたのは初めてだ」



あ、それであの笑顔だったのですね。とりあえずは納得しましたわ。