ふと、見上げた殿下の姿に既視感を抱いて内心で首を傾げる。この角度と、殿下の瞳だろうか。鳶色の中にきらきらと様々な色が混じり合う多色性の美しい瞳。少し思い返してみればすぐに思い出した。


初めて殿下と出会った時にもこの瞳の美しさに子ども心ながらに感動したのだ。まるでお土産で貰った東の島国で作られているという万華鏡のような複雑な色味に目を奪われたことを昨日のことのように覚えている。


こんな時になぜそんなことを思い出したのだろうと不思議に思うと同時になんだかおかしくて自然と笑みが溢れてしまった。王子妃教育をしてくれた教師に見られたら補講間違いないわね。



「トリシャ・リエ・クレイン侯爵令嬢」



このホールには多くの人が集まっているというのに殿下の声はその隅々にまで響き渡った。


さて、どんな台詞が出てくるのだろうと逆に好奇心を刺激されながら「はい、殿下」と淑女の微笑みを浮かべて扇を畳む。



「……君は高位の貴族令嬢、そして私の婚約者として幼い時から様々な教育やマナーをこなし、王族に嫁ぐにあたって必要な周辺の国々の情勢や国内の機微を学び、次代を支えるために若い貴族令嬢達を率いてきた。学園でもその評判は一部を除いて高評価だったな。その容姿は美しく聡明であり、心優しいだけではなく必要ならば目上の者でも苦言を定する度胸もある。当然の結果だな」


「………………………ありがとう、ございます………?」