我ながら棒読みな台詞だわ、などと思いながら小首を傾げて扇で口元を覆う。なんというテンプレートな展開。しかし正直この状況よりも殿下の様子が気になってしまって集中ができない。うん、何度チラ見しても微動だにしない笑顔。


王族たるもの常に誰かしらの視線を浴びているものであり、内心を表情にだしてはいけないという教えを忠実に守っている殿下だけれど、見慣れればその笑顔にも種類があることはわかる。そして現在も一見すれば変わらない穏やかなものに見えるけれど。



(「とても苛ついていらっしゃる……!」)



あぁ、長い付き合いでわかってしまう感情の差違よ。嬉しいが嬉しくない……久しぶりに頭痛がする。


同時に何故こんなに苛ついているのかと疑問に思う。殿下は意外と心が広いというか鷹揚な方だと思うのだけれど。


そんなことを考えながらもつらつらとわたしがどのような悪行…悪行というには少しばかりしょぼい…を挙げていく彼らの言葉を右から左に流していく。そして全てを言い切った後に全てを殿下に投げるのはどうなのか。小物臭が半端ない。


無言のままわたしの前に立つ婚約者は先程までの笑みを消して無表情だ。隣にひっそりとついてきているヒロインに気づいているのかいないのか…はたから見たらまさに断罪劇、という感じなのかしら。