(これは・・・、手を繋ぐ・・・ってことだよね?)


差し出された右手を見ながら、私はとてもドキドキとした。

けれど今、手を繋ぐ勇気は出なくって、恥ずかしさから、プイッと横を向いて言う。

「・・・それは・・・、ちょっと早いと思うんだけど」

「えっ!?あ、そ、そっか。ごめんっ。そうだよな・・・」

しまった・・・という表情で、早河は右手を引っ込めた。

私はほっとしたけれど、残念な気持ちも同時にあった。


(・・・・・・)


今は、ちょっと無理だと思う。

恥ずかしいし、突然そんな勇気もないし。

だけど、イヤなわけではなくて。

繋ぎたいって、思う気持ちももちろんあるから・・・・・・。

「・・・明日なら、いいよ」

「え?」

「だからその・・・・・・、明日なら、手ぇ繋いで帰っても」

「っ、ほんと!?」

「やった・・・!」と、早河はとても嬉しそうな顔をした。

ここまで喜んでくれるのならば、恥ずかしいけど、今日でもよかったかもしれない。

「・・・やばい。なんか、今からすげぇそわそわしてきた」

「・・・・・・、じゃあ、明日は止めて・・・、もうちょっと後にする?」

「え!?や、大丈夫。待って。そわそわ止める。すぐ止める。落ち着くから!」

そう言うと、早河は、すーはーと何度か呼吸を整えた。

普段のエースらしからぬ姿に、私は思わず笑ってしまった。


(なんか新鮮・・・)


昨日から、早河の知らなかった一面を沢山見ているような気がした。

ちょっとかわいく思える部分。

早河は、そんな私の視線に気がつくと、照れくさそうな顔をして、気持ちを切り替えるように言う。

「・・・まあ、とりあえず今日は普通に・・・、そろそろ帰ろっか」

「うん」と短く頷く私。

早河は、「じゃあ・・・」と、落ち着かないような顔で言う。

「着替えたら、校門のとこで待ち合わせでいい?」

「・・・っ、う、うん・・・っ!」


(やばい。嬉しい・・・)


嬉しさが、溢れてしまっているかもしれない。

・・・一緒に帰る。

私だって、ずいぶんそわそわしているみたい。

「じゃあ、あとで」

「うん」

お互いに照れくさそうに手を振り合うと、体育館の出口で左右に分かれた。

また、すぐに会えるから。

どうしても、そわそわするのは止められなくて、更衣室へと私は急いだ。

顔を上げると、私の頬を夕陽が照らす。

もしも今、私の頬が赤くても、夕陽のせいにしておこう。



☆     ☆     END     ☆     ☆



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