(この御令嬢も、同じようなことをあの男に言われたのか)
自分の腕を掴みながら少し前を足速に歩いているエレノアを見ながら、ロレンスは胸が切り裂かれるような痛みを感じていた。一体、彼女はアリスの言葉を聞いてどう思ったのだろう。きっと、自分があの男に言われたことを思い出してまた胸を痛めたに違いない。切り裂かれるような痛みを、エレノアは二度も味わったのだ。
エレノアが立ち止まり、ロレンスを見て悲しげに微笑む。そんなに辛そうな顔をしないでほしい。ロレンスがあの場にいなくてもいいように、ロレンスの腕を引いて連れ出してくれたこの令嬢のことを思うと胸が張り裂けそうになる。
いつの間にか、ロレンスはエレノアを抱きしめていた。悲しくて辛くて、もしかしたら泣いていたかもしれない。腕の中の小さいその体も、少し震えて泣いているように思えた。
近くにあるガゼボに座り、二人で話をしていると、時折エレノアが自分を見て驚き、照れたようにすぐに目をそらす。その様子に、なぜか胸がくすぐったく感じてしまう。ふわりと風が吹いて花びらが舞った。それに驚いたエレノアの横顔を見て、ロレンスは純粋に綺麗だ、と思った。
エレノアの髪についた花びらをそっと取ると、エレノアの肩が小さく揺れて、エレノアが俯く。
(可愛らしいな)
まるで自分に触れられて照れているように見える。きっとそんなはずは無い、でも、そうであったなら嬉しいのにとロレンスは思った。
(嬉しい?どうして?……俺は、エレノア嬢のことが気になっているのか)
トクトク、と心臓が速く鳴っている。アリスにふられてあれだけショックを受けたというのに、こんなにもすぐに目の前の令嬢を気にしている。なんて浅はかで軽い男なんだろうか。
「エレノア嬢、こんな時にこんなことを言うのは間違ってるのかもしれない。でも、俺は今君のことがすごく気になっている」
ロレンスの言葉に驚いてエレノアがロレンスを見上げる。
(ああ、本当に綺麗で可愛いらしいな。今、彼女の瞳には俺だけが映ってる)
ロレンスは嬉しそうにエレノアの髪の毛を優しく撫でて、そっと耳にかけた。
「君が嫌じゃなければ、たまにこうして二人で会えないかな。当て馬同士、仲良くなれると思うんだ」
「それは、当て馬同士傷を舐め合おうということですか?」
「もしかしたら、始めのうちはそうなってしまうかも知れない。でも、俺はそれだけで済ますつもりはないよ。それでは終わらない、そんな気がしてる。それくらい、君のことが気になってしまっている」
そっと思いを伝えると、エレノアは驚いた顔でロレンスを見上げる。上目遣いのその顔は月明かりに照らされてとても綺麗で、堪らなかった。
「ふられてすぐに他の女にいくなんて、軽い男だと思ってる?」
自嘲気味にそう言うと、エレノアは目を見開いてから首を振る。
「……いえ、私も、ロレンス様にとても惹かれています。軽い女だと思いますか?」
エレノアの返事を聞いて、ロレンスの胸はさらに高鳴った。
「……思わないよ。むしろ嬉しい」
そっとエレノアの頬を撫でると、エレノアは恥ずかしげに瞳を揺らす。顔を近づけて鼻先が触れると、エレノアはそっと瞳を閉じた。それを見てロレンスは胸が熱くなり、嬉しくて微笑んでしまう。そして、静かに優しくエレノアへ口付けた。
その後、二人は仲を深めあい、いつしか恋人同士になる。そして、アンドレとアリスよりも先に結婚し、ロレンスは元々いた場所から遠く離れた別の領地に大きな屋敷を構えた。
『私も、ロレンス様も、お二人の知らないところで勝手に幸せになりますから!』
あの日エレノアが宣言した通り、アンドレとアリスの知らない場所で、エレノアとロレンスは末永く幸せに暮らしたのだった。
自分の腕を掴みながら少し前を足速に歩いているエレノアを見ながら、ロレンスは胸が切り裂かれるような痛みを感じていた。一体、彼女はアリスの言葉を聞いてどう思ったのだろう。きっと、自分があの男に言われたことを思い出してまた胸を痛めたに違いない。切り裂かれるような痛みを、エレノアは二度も味わったのだ。
エレノアが立ち止まり、ロレンスを見て悲しげに微笑む。そんなに辛そうな顔をしないでほしい。ロレンスがあの場にいなくてもいいように、ロレンスの腕を引いて連れ出してくれたこの令嬢のことを思うと胸が張り裂けそうになる。
いつの間にか、ロレンスはエレノアを抱きしめていた。悲しくて辛くて、もしかしたら泣いていたかもしれない。腕の中の小さいその体も、少し震えて泣いているように思えた。
近くにあるガゼボに座り、二人で話をしていると、時折エレノアが自分を見て驚き、照れたようにすぐに目をそらす。その様子に、なぜか胸がくすぐったく感じてしまう。ふわりと風が吹いて花びらが舞った。それに驚いたエレノアの横顔を見て、ロレンスは純粋に綺麗だ、と思った。
エレノアの髪についた花びらをそっと取ると、エレノアの肩が小さく揺れて、エレノアが俯く。
(可愛らしいな)
まるで自分に触れられて照れているように見える。きっとそんなはずは無い、でも、そうであったなら嬉しいのにとロレンスは思った。
(嬉しい?どうして?……俺は、エレノア嬢のことが気になっているのか)
トクトク、と心臓が速く鳴っている。アリスにふられてあれだけショックを受けたというのに、こんなにもすぐに目の前の令嬢を気にしている。なんて浅はかで軽い男なんだろうか。
「エレノア嬢、こんな時にこんなことを言うのは間違ってるのかもしれない。でも、俺は今君のことがすごく気になっている」
ロレンスの言葉に驚いてエレノアがロレンスを見上げる。
(ああ、本当に綺麗で可愛いらしいな。今、彼女の瞳には俺だけが映ってる)
ロレンスは嬉しそうにエレノアの髪の毛を優しく撫でて、そっと耳にかけた。
「君が嫌じゃなければ、たまにこうして二人で会えないかな。当て馬同士、仲良くなれると思うんだ」
「それは、当て馬同士傷を舐め合おうということですか?」
「もしかしたら、始めのうちはそうなってしまうかも知れない。でも、俺はそれだけで済ますつもりはないよ。それでは終わらない、そんな気がしてる。それくらい、君のことが気になってしまっている」
そっと思いを伝えると、エレノアは驚いた顔でロレンスを見上げる。上目遣いのその顔は月明かりに照らされてとても綺麗で、堪らなかった。
「ふられてすぐに他の女にいくなんて、軽い男だと思ってる?」
自嘲気味にそう言うと、エレノアは目を見開いてから首を振る。
「……いえ、私も、ロレンス様にとても惹かれています。軽い女だと思いますか?」
エレノアの返事を聞いて、ロレンスの胸はさらに高鳴った。
「……思わないよ。むしろ嬉しい」
そっとエレノアの頬を撫でると、エレノアは恥ずかしげに瞳を揺らす。顔を近づけて鼻先が触れると、エレノアはそっと瞳を閉じた。それを見てロレンスは胸が熱くなり、嬉しくて微笑んでしまう。そして、静かに優しくエレノアへ口付けた。
その後、二人は仲を深めあい、いつしか恋人同士になる。そして、アンドレとアリスよりも先に結婚し、ロレンスは元々いた場所から遠く離れた別の領地に大きな屋敷を構えた。
『私も、ロレンス様も、お二人の知らないところで勝手に幸せになりますから!』
あの日エレノアが宣言した通り、アンドレとアリスの知らない場所で、エレノアとロレンスは末永く幸せに暮らしたのだった。



