「エレノア」
「アンドレお兄様……」
(一番会いたくない二人に会うなんて、本当についてない)
それから一週間後。エレノアの親戚が開いた社交パーティーに出席したエレノアは、風にあたろうと人気のない庭園の一角に来ていた。そこでアンドレとその隣にいるアリスにバッタリと出会ってしまい、二人に張り付いた笑顔をむけていた。
エレノアの笑顔を見たアリスは、アンドレの腕をキュッと掴む。それを見てエレノアの胸はまたズタズタに切り刻まれるように痛くなった。
「エレノア、最近顔を見なかったけど、元気そうだね」
「ええ、アンドレお兄様もお元気そうでよかったです」
「最近は全然遊びに来てくれないから俺も両親も心配してたんだよ。またそのうち遊びに来るといい」
(よくアリス様の前でそんなことが言えるわね、無神経にも程がある)
アンドレとエレノアは幼馴染なので、エレノアはアンドレの両親とも仲が良い。アリスにとってはそれすらもエレノアを警戒する要素の一つでしかないのだ。だが、そんなことも気が付かず、アンドレはエレノアに遊びに来いと言う。
(ここまでだと、逆にアリス様がかわいそうになってくる)
でも、結局そんな自分の存在は二人の愛を盛り上げる着火剤でしかない。どうせ自分は二人にとっては当て馬なのだ。一刻も早くここからいなくなりたい、二人のそばから離れたい。そう思っていると、アリスがエレノアの背後を見て両目を開いた。
「ロレンスお兄様」
「アリス……」
その聞き覚えのある良い低い声に、エレノアはハッとして後ろを振り返った。そこには、ふわふわの黒髪にルビー色の瞳をした騎士がいる。その騎士は、エレノアに気づいて驚く。お互いに、あの日夜会で出会った相手だと気がついた。
「君は……」
「ロレンスお兄様、エレノア様とお知り合いなのですか?」
アリスの質問に、ロレンスはエレノアを見て困った顔をする。エレノアも、どう答えていいか戸惑っていると、アンドレが少し不服そうな声を出した。
「あなたは確か、アリスの幼馴染の」
「ロレンスです。アリスがいつもお世話になっています」
固い口調でロレンスがアンドレにそう挨拶した。エレノアは、その状況を見て合点がいった。あの日、ロレンスが言っていた幼馴染でふられた相手は、アリスなのだ。
(まさか、こんな偶然が重なるなんて)
「それで、エレノアとあなたは一体どういうご関係ですか」
エレノアが呆然として目の前の光景を見ていると、アンドレが不満そうな顔でロレンスに尋ねる。
「それは……」
「ちょっとした知り合いです。そんなことより、ロレンス様、はアリス様の幼馴染だったんですね」
「え、ええ」
エレノアがそう言うと、アリスが少し戸惑い気味に言う。アンドレがそんなマリアを見て顔を顰めた。
「アリス、どうかしたのか」
「いえ、何も……」
「まさか、彼と何かあるわけじゃ」
「そんな!違います。前にも言いましたが、ロレンスお兄様はただの幼馴染で、兄のようにしか思ってません」
「そう言っても、彼の方はどう思っているかわからないじゃないか」
「本当に私たちはなんでもないんです。ロレンスお兄様、お兄様からもアンドレ様に言ってください。私たちはただの幼馴染だって、ロレンスお兄様も、私のことを妹としか思っていないって」
アリスの言葉に、ロレンスは両目を見開いて固まっている。それは、絶望の顔だった。エレノアはそんなロレンスの顔を見て胸が張り裂けそうになる。
(ああ、酷い……酷すぎる。何なのこれ)
エレノアはぎゅっと両目を瞑ってから、大きく息を吐く。そして、アンドレとアリスをしっかりと見つめて口を開いた。
「お二人とも、いい加減にしていただけますか?この状況で何か思い出しません?先日、アンドレお兄様が私に言ったことと同じですよね。兄か妹かの違いなだけで、あの状況と全く同じです。それで、お二人はそうやって私たちを当て馬にして満足ですか?そうやって私たちの心をズタズタにして、お二人は絆を深めあって幸せですか?幸せですよね、幸せでいてくれないと困ります。だって私たちの心はこんなにも悲鳴をあげているんですもの」
エレノアの言葉を、アンドレもアリスも、そしてロレンスも唖然として聞いている。
「もうお二人には付き合いきれません。お二人の当て馬でいることには疲れました。勝手に幸せになってください。私も、ロレンス様も、お二人の知らないところで勝手に幸せになりますから!」
エレノアはそう言ってお辞儀をすると、ロレンスの腕をとってその場から立ち去った。
「アンドレお兄様……」
(一番会いたくない二人に会うなんて、本当についてない)
それから一週間後。エレノアの親戚が開いた社交パーティーに出席したエレノアは、風にあたろうと人気のない庭園の一角に来ていた。そこでアンドレとその隣にいるアリスにバッタリと出会ってしまい、二人に張り付いた笑顔をむけていた。
エレノアの笑顔を見たアリスは、アンドレの腕をキュッと掴む。それを見てエレノアの胸はまたズタズタに切り刻まれるように痛くなった。
「エレノア、最近顔を見なかったけど、元気そうだね」
「ええ、アンドレお兄様もお元気そうでよかったです」
「最近は全然遊びに来てくれないから俺も両親も心配してたんだよ。またそのうち遊びに来るといい」
(よくアリス様の前でそんなことが言えるわね、無神経にも程がある)
アンドレとエレノアは幼馴染なので、エレノアはアンドレの両親とも仲が良い。アリスにとってはそれすらもエレノアを警戒する要素の一つでしかないのだ。だが、そんなことも気が付かず、アンドレはエレノアに遊びに来いと言う。
(ここまでだと、逆にアリス様がかわいそうになってくる)
でも、結局そんな自分の存在は二人の愛を盛り上げる着火剤でしかない。どうせ自分は二人にとっては当て馬なのだ。一刻も早くここからいなくなりたい、二人のそばから離れたい。そう思っていると、アリスがエレノアの背後を見て両目を開いた。
「ロレンスお兄様」
「アリス……」
その聞き覚えのある良い低い声に、エレノアはハッとして後ろを振り返った。そこには、ふわふわの黒髪にルビー色の瞳をした騎士がいる。その騎士は、エレノアに気づいて驚く。お互いに、あの日夜会で出会った相手だと気がついた。
「君は……」
「ロレンスお兄様、エレノア様とお知り合いなのですか?」
アリスの質問に、ロレンスはエレノアを見て困った顔をする。エレノアも、どう答えていいか戸惑っていると、アンドレが少し不服そうな声を出した。
「あなたは確か、アリスの幼馴染の」
「ロレンスです。アリスがいつもお世話になっています」
固い口調でロレンスがアンドレにそう挨拶した。エレノアは、その状況を見て合点がいった。あの日、ロレンスが言っていた幼馴染でふられた相手は、アリスなのだ。
(まさか、こんな偶然が重なるなんて)
「それで、エレノアとあなたは一体どういうご関係ですか」
エレノアが呆然として目の前の光景を見ていると、アンドレが不満そうな顔でロレンスに尋ねる。
「それは……」
「ちょっとした知り合いです。そんなことより、ロレンス様、はアリス様の幼馴染だったんですね」
「え、ええ」
エレノアがそう言うと、アリスが少し戸惑い気味に言う。アンドレがそんなマリアを見て顔を顰めた。
「アリス、どうかしたのか」
「いえ、何も……」
「まさか、彼と何かあるわけじゃ」
「そんな!違います。前にも言いましたが、ロレンスお兄様はただの幼馴染で、兄のようにしか思ってません」
「そう言っても、彼の方はどう思っているかわからないじゃないか」
「本当に私たちはなんでもないんです。ロレンスお兄様、お兄様からもアンドレ様に言ってください。私たちはただの幼馴染だって、ロレンスお兄様も、私のことを妹としか思っていないって」
アリスの言葉に、ロレンスは両目を見開いて固まっている。それは、絶望の顔だった。エレノアはそんなロレンスの顔を見て胸が張り裂けそうになる。
(ああ、酷い……酷すぎる。何なのこれ)
エレノアはぎゅっと両目を瞑ってから、大きく息を吐く。そして、アンドレとアリスをしっかりと見つめて口を開いた。
「お二人とも、いい加減にしていただけますか?この状況で何か思い出しません?先日、アンドレお兄様が私に言ったことと同じですよね。兄か妹かの違いなだけで、あの状況と全く同じです。それで、お二人はそうやって私たちを当て馬にして満足ですか?そうやって私たちの心をズタズタにして、お二人は絆を深めあって幸せですか?幸せですよね、幸せでいてくれないと困ります。だって私たちの心はこんなにも悲鳴をあげているんですもの」
エレノアの言葉を、アンドレもアリスも、そしてロレンスも唖然として聞いている。
「もうお二人には付き合いきれません。お二人の当て馬でいることには疲れました。勝手に幸せになってください。私も、ロレンス様も、お二人の知らないところで勝手に幸せになりますから!」
エレノアはそう言ってお辞儀をすると、ロレンスの腕をとってその場から立ち去った。



