「俺が好きなのはアリス、君だけだ。エレノアのことは妹のようにしか思っていない。エレノア、君だって俺のことを兄のようにしか思ってないだろう?」

 エレノアと呼ばれた令嬢の目の前には、令嬢アリスを抱きしめながら冒頭の発言をしているエレノアの恋焦がれる男性、アンドレがいた。エレノアは美しい金色の髪を風に靡かせ、碧い瞳を悲しげに揺らしている。そんなエレノアを見て、アンドレの腕の中にいるアリスは不安げに口を開いた。

「そんな、私にはわかります、エレノア様だってアンドレ様のこと……」
「ありえないって言っているだろう。エレノア、どうかちゃんとアリスに教えてやってくれ。俺たちは何もない、ただの兄妹みたいなものだって」

 マリアの発言に対して当然のようにそう言ってくるアンドレを、エレノアは張り付いたような笑顔を浮かべてただ見つめることしかできない。

(ああ、胸が痛い、苦しい……どうしてそんなこと平気で言えるの?本当に私の気持ちに何も気づいてなかった。ただの妹としか、見てくれていなかった)

 アンドレの腕の中には、不安そうな顔でエレノアを見つめるアリスがいる。あの場所にいるのが、どうして自分ではなくあの子なのだろう。

「エレノア!」

 アンドレの声でハッと我に返る。アンドレを見ると、アンドレはエレノアを懇願するような目で見ている。

(どうしたって無理なの。わかってる。私は、アンドレ様にとって、ただの妹)

「そうですよ、アリス様。どう考えたって、アンドレお兄様はアリス様のことしか見えてません。私のことなんてなんとも思っていない、妹としか思っていないんです。そんなアンドレお兄様のこと……私も、兄のようにしか思ってません」

 そう言って、にっこりと微笑むと、アンドレはほっとしたような顔でエレノアを見た。その顔を見た瞬間、エレノアの胸はズタズタに切り刻まれたように痛む。

「お二人の邪魔になるので、私はもういなくなりますね。アリス様、どうかお兄様とお幸せに」

 そう言って小さくお辞儀をすると、エレノアはくるりと後ろを向いて足速にその場から立ち去る。

(はやく、はやく、お兄様たちのそばから離れたい。もう顔も見たくない、見れない)

 俯きながら足速に歩くエレノアの足元には、ポタポタと水滴が落ちていく。エレノアの両目からは大量の涙が溢れ、エレノアの視界は大きく歪んでいった。