「…」



時間が過ぎ去り
ようやく気持ちが落ち着いてきたと思ったら


今度は、また別の問題に襲われた



―――『この旅館、「出る」らしいよ』



脳内に浮かんだその言葉に
私は布団の中で、身震いする


手元に置いてあったスマホで時間を確認すれば
時刻は0時29分


不思議な事が起こっても、おかしくない時間帯




……あんなの、ただの噂

ちゃんと、鍵閉めてるし、大丈夫…



そう、なだめる自分がいる一方で



………でも、もし本当だったら?

幽霊だもん。ドアすり抜けて来れるんじゃ…?



そんな風に思う自分もいて




「…」




私は、じっとドアのある方へ視線を向ける



…。



閉ざされたドアが、不気味な音を立てて開いて
その隙間から覗くのは青白い女性の―…


妄想が炸裂して
脳内で勝手に映像化してしまう


私は慌てて
打ち消すように頭を振って、起き上がる



……
……………寝てる、かな……



物静かな襖の向こうを眺めて
躊躇いつつも、恐怖に負けた私は
小さく声をかけた




「……ゆう兄」