貴方を守るには

手術をしてから三日後。彼と話すことを決意した。本当は次の日に行けば良かったのだが、恐らくまだ精神的・身体的にストレスが溜まっている状態だろう。だから少し時間を空けることにした。

その間に青葉を刺した奴は捕まった。どうやら防犯カメラに映っていたので、捕まえることができたという。

無職の男の名は『堂本雄二』。拓海の私生活を観察したり後をつけたりしていた、悪質なストーカーだ。そのため拓海は前から視線に気付き警戒はしていたが、何も手出しをしてこなかったことからボディーガード等は手配していなかったという。


病室に行くと、先客が二人。どちらもスーツを着ている。僕がそちらへ向かうと、男の人が僕に気づいた。彼は真剣な表情で話しかけてくる。

「青葉さんのお知り合いですか?警察の者です」

そう言って、警察手帳を二人とも見せてきた。僕は軽くお辞儀する。

「彼からは事情聴取をしていました。もう終わりましたので、我々は失礼します」
「は、はい」

警察の二人がそのまま去っていく。僕には事情聴取しなかったようだ。恐らく彼から話を聞いた方が早いと思ったのだろう。

僕は拓海の方に寄り添う。彼の表情は暗くて、目の下にクマが出来ていた。あの時より痩せている。

僕が明るく笑顔で話しかけると、彼は下を向いてポツリと呟く。

「無事で良かった。本当に心配したんだよ」
「……ごめん」
「え?」

いきなり謝ってきたので、口が半開きになってしまう。彼が謝る必要はないのに。悪いのは刺してきたあの男だろ。

「本当は騙していたんだ。『付き合おう』って言ったのは、あのストーカーから逃げるためだったんだ。本当にごめん」

彼は拳を握り、腕を振るわせながら声を上げずに泣いていた。僕はそんな彼の両手を握りしめる。拓海につられて僕も泣いてしまう。

「泣かないで!僕は嬉しかったんだ!たくさん褒めてくれたし、拓海のことたくさん知ることができた!」
「うぅ……でも……」
「泣いている顔なんて見たくないよ!僕はまた拓海がアイドルしているところみたい!だから……」

言葉の途中で、拓海にキスをされた。唇が触れる軽いキス。ほのかに柔らかくて、ミントの香りがした。

それが終わると、彼が涙を拭いて笑顔を作る。

「ありがとう!元気出たわ……。泣いてばかりじゃ、アイドル失格だよな」
「そんなこと……」
「もしよければさ……『付き合おう』……って言っちゃダメだよな。ハハ」
「ううん。僕は拓海とたくさん話して、楽しかったんだ。また今度も付き合おうよ!」
「幸男には叶わないな……」

彼は後頭部をかいて、誤魔化すように笑う。

「じゃあ、改めてよろしく」
「はい!拓海のこと大好き!」
「俺もだ」

僕は明るい笑顔のまま、彼と笑い合った。自分の本当の気持ちをぶつけられて良かった。拒まれることもなかったので、とても嬉しい!


拓海が退院した後、僕たち二人は付き合うことにした。当然あの後ライブコンサートに行き、拓海を応援。リハーサルは見ることができなかったけど、一週間遅れての上演。僕はいつもより興奮して、大きな声を張り上げた。

「拓海ー!かっこいいー!」

そういうと、彼がこちらを向いて微笑んでくれた。やっぱりカッコいいや。