あなたでよかった


それから、灯也と紗雪は、今朝紗雪の手当をした小さな部屋に移動をし、紗雪は傷が入った灯也の傷口に薬を塗ると、ガーゼをあて包帯を巻き始めた。

「わたしのせいで灯也様に怪我を負わせてしまって、、、申し訳ありません。旦那様に何と謝罪すれば良いか、、、。」
「そんな心配する必要はない。自分で怪我をしたことにすれば良いだけだ。」
「灯也様は、お優しいですね。」

紗雪はそう言いながら、微かに微笑んだ。

「紗雪さん?どうしてあんなことをしたの?もしかしてだけど、、、普段から、深川さんにやられていたみたいな虐めや嫌がらせを受けてた?」

灯也の言葉に、紗雪は無言で頷いた。

「やっぱり、、、ごめん、今まで気づけなくて。」
「いえ、灯也様のせいではありません。わたしが仕事が出来ないのが悪いんです。」
「でも、紗雪さんはいつも誰よりも一生懸命働いていると思うよ?」
「えっ、、、?」
「他の家政婦たちがお喋りをしている中、手を止めずに働いてくれて、俺らに一番手を尽くしてくれているのは紗雪さんだって、俺は前から思ってた。」

紗雪は、灯也の言葉に涙を流した。

まさか、自分の頑張りを見ていてくれていた人がいただなんて、、、
そう思い、少しだけ報われた気がした。

「それから、、、うちの兄さんも原因の一つかな?」

灯也がそう訊くと、紗雪は躊躇うように頷き、「もう、、、我慢の限界にきてしまいました。」と言った。

「紗雪さん、、、そんなに我慢してうちの家政婦をする必要はないよ?仕事は他にたくさんある。ご実家に帰って、他の仕事を探してはどうかな?」
「、、、帰れないんです。」
「えっ?」
「わたし、、、売られて来たんです。父が経営していた会社が倒産して、その借金を神蔵家の旦那様が肩代わりする代わりに、わたしがここへ来ました。だから、住込みで働いて居て、、、帰る場所がないんです。」

紗雪の言葉を聞き、灯也は言葉を失った。

今の時代でも、そんなことが、、、しかも自分身近で行われていただなんて、、、
あまりに衝撃的な話に、灯也は紗雪に掛ける言葉が見つからなかった。