そして、灯也はというと、19時まで仕事に追われ、その後は他社の社長たちと会食を済ませ、綺羅びやかな女性たちが接待する店へと付き合わされた。
疲れ果てた灯也が帰宅出来たのは0時を回ってからだった。
すると、いつもならその時間に明かりが点っていないはずのキッチンが明るい事に気付く。
灯也が不思議に思いながら、キッチンを覗くと、そこには自分にフルーツカットナイフを向けて握る紗雪の姿があったのだ。
灯也は慌てて紗雪に駆け寄ると、「何してるんだ!」とナイフを握る紗雪の手を掴んだ。
「灯也様、、、離してください。」
そう言う紗雪の瞳からは、止めどなく涙が溢れこぼれ落ちていた。
「自分が何をしてるか、分かってるのか?」
「はい、、、わたしは、もう生きている意味が分からなくなってしまいました。だから、、、」
そう言って、紗雪はナイフを持つ両手に力を込めた。
灯也はそれを阻止する為にナイフの刃の部分を握り締めた。
それを見た紗雪は「灯也様、、、!」と驚き、ナイフを離した。
ナイフを握る灯也の手からは血が滴り落ちてゆく。
灯也はナイフをシンクの中に置き、水で血を洗い流すと「紗雪さん、俺の手当をしてくれるかな?」と優しい口調で言った。
紗雪は涙を流し続けながら頷き、「申し訳ありません、、、。」と声を震わせて言った。



