紗雪は立ち上がると、はだけた胸元を押さえ、灯也に一礼し「失礼致します。」と言うと、早足に立ち去って行った。
紗雪のことが心配で去って行く彼女の後ろ姿を見つめていると、部屋からワイシャツ姿の隼也がネクタイを締めながら出て来た。
「おう、灯也。」
「兄さん、、、紗雪さんに何したの?」
「何したって、抱いてやっただけだよ。」
「でも、紗雪さん泣いてたよ?」
「あいつは家政婦だ。泣こうが嫌がろうが関係ない。」
隼也はそう言うと、キュッとネクタイを締め、ワイシャツの襟を直した。
「男は仕事前に女を抱いた方が仕事が捗るんだぞ?お前も家政婦の誰かを抱いたらどうだ?あ、でも紗雪は俺のだからダメだぞ?でも、うちの家政婦、ババアばっかりだからなぁ〜。」
隼也の言葉に苛立ち、それを必死に隠そうとする灯也。
兄さんは父さんと同じで家政婦さんたちを奴隷としか思っていない。
そんな二人に共感出来ない灯也は、黙って隼也の話を聞いていた。
「紗雪は良い女だぞぉ。若いし、スタイルは良い。胸もそこそこあるし、締まりも良いし。」
満足気にそう言う隼也は、「そろそろ仕事に出掛けるぞ。」と言うと、部屋からスーツの上着を持って来て羽織り、靴音を鳴らしながら歩くと、家政婦を引き連れて玄関へと向かって行った。
その後ろを灯也はついて歩いて行き、隼也と共に迎えの車に乗り込もうとする。
すると、灯也は見送りで並ぶ家政婦たちの中に紗雪が居ることに気付いた。
紗雪は悲しげな瞳で他の家政婦たちと共に「いってらっしゃいませ。」と頭を下げていた。



