灯也は、紗雪が淹れてくれたブラック珈琲を口へ運ぶと、それと同時に隼也は席を立ち、ダイニングルームから出て行った。

すると、素早く家政婦たちがやって来てダイニングテーブルに置かれた皿やカップなどを片付け始める。

「さて、わしもそろそろ準備するか。」

そう言って席を立つ、父の敏也。

「父さん、今日のご予定は?」
「今日は浦和会長とゴルフだ。」

そう言いながら、父の敏也はゴルフの素振りをする。

「そうですか。楽しんで来てください。」
「お前は会社の方を頼むぞ。」
「はい。」

敏也はそう言うと、ゴルフが楽しみなのかにこやかにダイニングルームをあとにした。

ダイニングテーブルで一人、珈琲を飲む灯也。

灯也は、紗雪のことが気になっていた。

紗雪さんは兄さんに部屋に呼ばれ、一瞬だが怯えたような表情を浮かべた。
兄さんは紗雪さんを部屋に呼んで、何をするつもりなんだ。

そう思いながら、灯也はいつもは味わう珈琲の味が分からないまま、最後まで飲み干したのだった。