灯也がダイニングルームに戻った時には、神蔵グループ会長である父の敏也と、長男の隼也が食事を済ませ、食後の珈琲で一息ついているところだった。
「灯也、どうしたんだ。何かあったのか?」
父の敏也が訊く。
「家政婦さんが怪我をしてしまったので、手当てをしていました。」
「何だ、そんなの放っておけば良いのに。」
「そんなわけにはいきません。僕たちが快適に生活出来ているのは、家政婦さんたちのおかげですからね。」
「こっちは雇ってやってる側だ。わたしたちの為に尽くすのは、当然の事だ。」
そんな会話をしていると、ダイニングルームのドアがノックされ、「失礼致します。」と紗雪が入って来た。
そして、「お待たせ致しました。」と灯也の前に珈琲を出す。
「ありがとう。」
灯也が紗雪にそう言うと、長男の隼也が「さっき怪我したって言ってた家政婦って、紗雪のことだったのか?」と不機嫌そうに言った。
隼也は紗雪の手に巻かれている包帯に気付き、そう思ったのだろう。
「は、はい、、、灯也様に手当していただきました。」
紗雪がそう答えると、隼也は面白くなさそうな表情を浮かべ、それから「紗雪、あとで俺の部屋に来なさい。」と言った。
「え、、、はい。」
紗雪の微かに怯えるような表情を灯也は見逃さなかった。
それに隼也は紗雪のことを呼び捨てで呼んでいる事にも気になっていた。
紗雪は「では、失礼致します。」と深く一礼すると、ダイニングルームから静かに出て行った。



