あなたでよかった


紗雪から電話を受けた灯也は、慌てて課長の元へ向かうと、事情を話して早退させてもらえることになった。

会社から出た灯也はタクシーを拾い、紗雪のパート先であるスーパーに向かった。

そして、そのスーパーに到着すると、明らかに1台だけ雰囲気の違う車が駐車場に停まっていたのだ。

見たことがない車なことから、こちらへ来てからレンタカーを借りたのだろうと灯也は推測した。

灯也がその車に近付いて行くと、後部座席のドアが開き、中から真っ黒いサングラスをかけた兄の隼也が姿を現した。

「灯也、、、お前、こんなとこで何してるんだ。」

隼也はサングラスを外しながら、鋭い目つきでそう言った。

「兄さんこそ、こんなとこまで何しに来たの?」
「お前、俺の紗雪を連れ出して、ただで済むと思ってるのか?」
「紗雪は、自分の意志で俺とあの家を出た。連れ出したわけじゃない。」
「はぁ、、、紗雪?いつから、紗雪を呼び捨てにするようになったんだ。俺のモノに手を出すとは、良い度胸だ。」
「紗雪はモノじゃない。一人の人間として、自分の人生を決める権利がある。」

隼也はゆっくりと灯也に近付いて来ると、目の前で立ち止まり、「いつから、お前は俺に口答え出来るようになったんだ?」と灯也を睨み付けた。

「俺は、もう神蔵家の人間じゃない。だから兄さんも、もう俺とは無関係だ。」
「お前、社長の座が欲しくないのか?」
「社長の座なんて欲しくない。兄さんに仕事の面で負ける気はしないけど、社長の座は兄さんに譲るよ。」

灯也がそう言うと、隼也は苛立ち「灯也、、、いつから俺にそんな偉そうな口を叩けるようになったんだ?」と灯也の胸ぐらを掴んだ。