そして、次の日から灯也は就職活動を始めた。
それなりに資格を持っている灯也は、あっという間に就職先が決まり、某会社でSEとして働くことになった。
一方、紗雪はというと、24歳から神蔵家の家政婦として仕えていた為、ほぼ社会経験はなかった。
灯也は「俺が養うから、紗雪は働かなくても大丈夫だよ?今までずっと神蔵家に尽くして来てくれたんだから。」と言ったのだが、紗雪は「社会に出て、働いてみたい。」と言った為、「じゃあ、短時間の仕事を探してみたら?」とアドバイスをした。
灯也の仕事が決まってからは、治安の良い地域を選び、築年数がそれほど経っていない綺麗な1LDKのマンションを借りた。
「本当に2LDKじゃなくて良かったの?」
灯也は紗雪のことを考え、2LDKのマンションを探していたのだが、紗雪は「自分の部屋は要りません。灯也さんと一緒の部屋がいいです。」と言った為、1LDKのマンションに決めたのだ。
物件が決まってからは、灯也と紗雪の二人で家具屋や家電量販店を回り、次々と必要なものを揃えていった。
新しい生活にワクワクしている紗雪を見ていると、灯也はもっと紗雪を喜ばせたい、幸せにしたいと感じ、いつしか紗雪に心惹かれている自分に気付いたのだった。
何とか自宅がほぼ完成し、ホテル生活から抜け出し、初めて自宅で過ごす夜。
紗雪は、ベランダから空に浮かぶ月を眺めていた。
「今日は満月だね。」
「はい、綺麗ですね。」
つい、「紗雪の方が綺麗だよ。」という本音が出てしまいそうになった灯也だったが、そんな台詞クサイよなぁ、と思い、慌ててその言葉を呑み込んだ。



