あなたでよかった


そして、次の朝。

灯也と紗雪は住み慣れた街を離れる為に新幹線に乗り、遠く、遠く、誰も知らない場所へと向かった。

夜にまともに眠れなかった二人は、新幹線の中で寄り添うように眠った。

それから、来たこともない新しい街で生活していく為に、色んな手続きを行い、仕事や物件が見つかるまでビジネスホテル生活をすることにした。

「部屋は、別々にするから心配しないでね。」

灯也がそう言うと、紗雪は「わたしは灯也さんと同じ部屋でも構いませんよ?わたしの為に二部屋も取る必要はありません。」と言い、しばらくの間、二人でツインルームでの生活を送ることになった。

「色々な手続きで疲れましたね。珈琲淹れますね。」
「ありがとう。」

そう言って、紗雪が淹れた珈琲で一息つく二人。

すると、灯也が「少し休んだら、街を見て回ろうか。少しずつ慣れていった方がいいし、紗雪はその服しか持っていないから、買い足さないと。」と言った。

「そうですね。でも、正直わたしあまり貯金がないので、服はこのままで大丈夫です。」
「その心配はいらないよ。俺が出すから。」
「そんな、何もかも灯也さんにご迷惑をかけるわけにはいきません。」
「俺は迷惑だなんて思ってない。紗雪はそのままでも綺麗だけど、やっぱり着替えは必要だろ?」

灯也の心遣いに微笑む紗雪は、「灯也さん、ありがとうございます。」と言い、灯也の優しさに心が温かくなるのを感じた。