それから二人はすぐ行動に移した。
ダイニングテーブルの上には、「さようなら」とだけ書いたメモ書きを残し、その横には灯也は自宅の鍵と社員証を、紗雪はエプロンと家政婦が着る制服を置き、そっと神蔵家をあとにした。
灯也はある程度の物を鞄に詰め込んで来たが、紗雪は小さなバッグ一つだけしか持っておらず、服も腰でリボン結びをされたネイビーのワンピースに薄手のカーディガンを羽織っているだけだった。
「紗雪さん、荷物はそれだけ?」
「はい、わたしには持って来る物が何も無くて、この服も初めて神蔵家に来た時に着ていた服なんです。」
「それじゃ、寒いでしょ?これ着て。」
そう言って、灯也は自分が着ていたジャケットを紗雪の肩に掛けてあげた。
「わたしは大丈夫です。灯也様が寒いじゃないですか。」
「俺は大丈夫だよ。さぁ、急ごう。」
灯也と紗雪は広い通りまで徒歩で向かうと、そこからタクシーを拾い、繁華街まで移動した。
しかし、朝まで外で過ごすわけにもいかず、仕方なくその場しのぎの為に灯也は紗雪と共にラブホテルへ向かい、朝までそこで過ごすことにした。
「紗雪さん、こんな場所でごめんね。」
灯也がそう言うと、紗雪は「わたし、ラブホテルって初めて来ました。綺麗ですね。」とまるで遊園地に来た子どものような表情をしていた。
そして、色んなボタンを押しては「電気の色が変わった!」だとか、ベッドが回転して「凄い!」と楽しそうで、そんな紗雪を見て、灯也は「紗雪さんもこんな無邪気な表情が出来るんだなぁ。」と思い、少しホッとしたのだった。



