◯宮本家・桜空の部屋・中・夕方
桜空、ピアノの上に置いてある服や物を片付けて、ホコリまるけのピアノを磨く。
桜空「こんなもんかな?」
桜空、ピアノの前に座り弾き始める。
音がズレている。
桜空「音……。鍵盤が使えるだけマシよね」
桜空、夢中で指のトレーニングをしている。
◯同・玄関・中・夜
桜空の母、帰ってくる。
ピアノの音が響いている。
母「ただいま。遅くなってごめんね。桜空? ちょっと! 音量大きくない?」
◯同・桜空の部屋・外・夜
桜空の母、扉を勢いよく開ける。
母「ちょっと! 音量下げなさい!」
桜空、夢中でピアノを弾いて聞こえていない。
母「え? 弾いてるの? もう夜なんだけど……」
桜空、まだピアノを弾き続けている。
桜空の母、扉を閉める。
母「(決意の表情で)いいわ。苦情でも何でも来なさい!」
桜空の母、大声で笑ってハミングをしながらリビングへ向かう。
◯学校・教室・中
部屋の隅っこに、伴奏用のキーボードが置かれている。
由季「まずは、体をほぐすよー」
由季、みんなの前に出て準備体操の声がけをしている。
由季「では、前回決めたパートごとに分かれて練習してください。伴奏はどう?」
桜空「ごめん、まだ……」
由季「大丈夫だよ。こういう時のための副伴奏がいるんだから。しっかり働いてもらわないと」
桜空「私が副伴奏の方がよかったかも」
晴琉「なーに言っちゃってんの。弱気になるなよ」
由季「新田、音出しお願い」
晴琉「へーい」
桜空「私、音楽室で練習してくるね」
晴琉「じゃ、俺も!」
由季「(睨んで)あんたはここ!」
晴琉「鬼だな」
◯同・音楽室・中
桜空、ピアノを弾いている。
桜空、指が動かず間違える。
桜空「あーもう!」
桜空、イライラしながらも指トレーニングを続ける。
◯道・夕方
桜空、1人で歩いて帰っている。
桜空(どうしよう。やっぱり自力じゃ難しいかな。先生? 教室? うーん……)
桜空、晴琉の顔が頭に浮かび、首を激しく横に振ると肩を落とす。
晴琉、桜空を見つけて駆け寄る。
晴琉「よう」
桜空「(焦って)あ」
晴琉「あ、って何だよ。他に何かあるだろ?」
桜空「あ、(上を見て棒読みで)星が出てるね」
晴琉「(上を見て)お、おう?」
晴琉(雲しか見えねえけど?)
桜空、晴琉、しばらく黙ったまま並んで歩く。
晴琉「練習、どう?」
桜空「指の感覚が戻らないかな」
晴琉「やっぱ、前みたいに動かないもん?」
桜空「思ってた以上にね」
晴琉「だよな。この前公園で、鉄棒の練習してたちびっ子がいて、もうちょっとでできそうなのに泣いてんの」
桜空「私がその子と一緒ってわけ?」
晴琉「じゃなくて、俺、教えてやるって逆上がりやろうとしたら、全然できなくって。めっちゃ笑われた」
桜空「なるほど。私もあなたも、過去の成功体験のイメージに溺れてたってわけね」
晴琉「別にそこまでは言ってねぇって!」
桜空「成長するつれて出来なくなることが多いような気がする」
晴琉「例えば?」
桜空「そうね……。色々よ。色々」
晴琉「色々ねぇ。人前で大泣きしたり?」
桜空「もう!」
晴琉「まあまあ、とにかく困ったことあればいつでもどうぞ」
桜空「まさか! 由季ちゃんに言われてるの?」
晴琉「まさか! 短期上達法を知ってるから、伝授したいだけ」
桜空「考えとく」
晴琉「でさ、勝負はいつすんの?」
桜空「いつでも」
晴琉「OK。もう少し先ね」
晴琉、桜空に笑顔を向ける。
◯空・夕方
雷が鳴り、突然雨が降ってくる。
◯道・夕方
晴琉、空を見上げる。
晴琉「ヤバっ!」
桜空「冷たっ」
桜空、晴琉、みるみるうちに全身ずぶ濡れになる。
桜空、晴琉、顔を見合わせる。
晴琉「走るぞ!」
晴琉、走っていく。
桜空、走らずのんびり歩いている。
晴琉、桜空の所に戻る。
晴琉「何してんだよ!」
桜空「いや、濡れたついでにもっと濡れてみようかと」
晴琉「風邪引くぞ!」
桜空「音……綺麗だし」
桜空、耳を澄ましている。
晴琉、桜空の側で同じように耳を澄ます。
雨音に被せて、雨が屋根に当たる音、水たまりに当たる音など様々な音が混ざりあって聞こえる。
晴琉、笑顔で聞いてる桜空にドキドキする。
晴琉、上着を脱いで桜空に頭から被せる。
桜空、驚いて晴琉を見上げると顔を赤らめているのを見て自分も赤くなる。
晴琉、桜空の手を引いて走り出す。
桜空「待って!」
○宮本家・リビングルーム・中・夕方
タオルをターバン風にし、オーバーサイズのトレーナーに短パンの桜空、落ち着かずにソワソワしながらウロウロ歩き回っている。
桜空(家、近かったから連れてきちゃったけど、この状況よろしくないような気がする。どうしよう。大変よろしくないような気がします)
晴琉、ダボっとしたトレーナーに同じく大きな長ズボン姿で髪をタオルドライしながら入ってくる。
桜空、晴琉のバックにキラキラした星がたくさん見えて、思わず目を擦る。
晴琉「お先。シャワー、サンキュー。つーか、この服、本当に桜空の? 彼氏さんとかのじゃねぇの?」
桜空「(小声で)彼氏なんて……」
桜空(ここで、いなかったと言えば『だよな』とか言って大笑いされそう。ここは、『そう』と言っておけばなんか勝った気がする!)
桜空「そう、彼氏の!」
晴琉、服をクンクンと嗅ぐ。
晴琉「桜空の匂いするから、違うな(ニヤリとする)」
桜空「ヘンタイ!」
晴琉「じゃ、マジで彼氏いんの?」
桜空「いない」
晴琉「そっか、そっか」
晴琉、ものすごく嬉しそうにしている。
晴琉「シャワーして来いよ。体冷えちまっただろ?」
桜空「いいです」
晴琉「あんま、警戒すんなって。ここで我慢されて風邪引いたら困る」
桜空「いいです」
晴琉「全く頑固だなぁ。じゃ、とりあえず何する? 制服乾くまで」
桜空「私は練習しないと……」
晴琉「だな。ピアノどこ?」
桜空「部屋だけど」
晴琉、突然走り出して部屋を出る。
桜空、慌てて晴琉を走って追いかける。
○同・桜空の部屋・中・夜
桜空、必死で扉を押さえている。
○同・桜空の部屋・外・夜
晴琉、必死で扉を押さえている。
晴琉、扉が少しずつ開きなだれ込む。
○空・夜
雨がやむ。
○宮本家・桜空の部屋・中・夜
晴琉、床や机やあちこちに物が散乱しているのに驚いている。
桜空、肩で荒く息をしている。
晴琉、ピアノを見つける。
晴琉「あった!」
晴琉、ピアノに飛びついて蓋を開けると弾き始める。
晴琉「何、この音!」
桜空「まだ、調律してなくて……。とりあえず指練習できればいいかなって」
晴琉「してやろうか? 調律」
桜空「できるの?」
晴琉「本格的には無理だけどな」
桜空「お願いします!!」
晴琉「いつがいい?」
桜空「え? 今やってくれるんじゃないの?」
晴琉「四六時中、道具持ってるわけねぇだろ?」
晴琉、カバンの中を探る。
晴琉「あ」
× × ×
桜空、ピアノの前に座り人差し指で鍵盤をあちこち押す。
桜空「すごーい!」
桜空、満面の笑みで生き生きしている。
晴琉「ちゃんとした調律師すぐ呼べよ。なんなら、知り合い頼んどくか?」
桜空、鍵盤押すのに夢中である。
桜空「生き返ったねぇ。すごいねぇ」
桜空、指練習(ハノン)を始める。
晴琉、ビックリする。
晴琉(はぁ? ブランクあってなんでこんなに動いてんだ? ウソだろ?)
晴琉「おーい、もしもーし」
桜空、夢中で弾いていて聞こえていない。
桜空、弾きながら音に耳を澄まして微笑んでいる。
晴琉「マジかよ。ラスボス叩き起こしちまった気分」
晴琉、床に散乱しているものを片付け始める。
桜空、ピアノの上に置いてある服や物を片付けて、ホコリまるけのピアノを磨く。
桜空「こんなもんかな?」
桜空、ピアノの前に座り弾き始める。
音がズレている。
桜空「音……。鍵盤が使えるだけマシよね」
桜空、夢中で指のトレーニングをしている。
◯同・玄関・中・夜
桜空の母、帰ってくる。
ピアノの音が響いている。
母「ただいま。遅くなってごめんね。桜空? ちょっと! 音量大きくない?」
◯同・桜空の部屋・外・夜
桜空の母、扉を勢いよく開ける。
母「ちょっと! 音量下げなさい!」
桜空、夢中でピアノを弾いて聞こえていない。
母「え? 弾いてるの? もう夜なんだけど……」
桜空、まだピアノを弾き続けている。
桜空の母、扉を閉める。
母「(決意の表情で)いいわ。苦情でも何でも来なさい!」
桜空の母、大声で笑ってハミングをしながらリビングへ向かう。
◯学校・教室・中
部屋の隅っこに、伴奏用のキーボードが置かれている。
由季「まずは、体をほぐすよー」
由季、みんなの前に出て準備体操の声がけをしている。
由季「では、前回決めたパートごとに分かれて練習してください。伴奏はどう?」
桜空「ごめん、まだ……」
由季「大丈夫だよ。こういう時のための副伴奏がいるんだから。しっかり働いてもらわないと」
桜空「私が副伴奏の方がよかったかも」
晴琉「なーに言っちゃってんの。弱気になるなよ」
由季「新田、音出しお願い」
晴琉「へーい」
桜空「私、音楽室で練習してくるね」
晴琉「じゃ、俺も!」
由季「(睨んで)あんたはここ!」
晴琉「鬼だな」
◯同・音楽室・中
桜空、ピアノを弾いている。
桜空、指が動かず間違える。
桜空「あーもう!」
桜空、イライラしながらも指トレーニングを続ける。
◯道・夕方
桜空、1人で歩いて帰っている。
桜空(どうしよう。やっぱり自力じゃ難しいかな。先生? 教室? うーん……)
桜空、晴琉の顔が頭に浮かび、首を激しく横に振ると肩を落とす。
晴琉、桜空を見つけて駆け寄る。
晴琉「よう」
桜空「(焦って)あ」
晴琉「あ、って何だよ。他に何かあるだろ?」
桜空「あ、(上を見て棒読みで)星が出てるね」
晴琉「(上を見て)お、おう?」
晴琉(雲しか見えねえけど?)
桜空、晴琉、しばらく黙ったまま並んで歩く。
晴琉「練習、どう?」
桜空「指の感覚が戻らないかな」
晴琉「やっぱ、前みたいに動かないもん?」
桜空「思ってた以上にね」
晴琉「だよな。この前公園で、鉄棒の練習してたちびっ子がいて、もうちょっとでできそうなのに泣いてんの」
桜空「私がその子と一緒ってわけ?」
晴琉「じゃなくて、俺、教えてやるって逆上がりやろうとしたら、全然できなくって。めっちゃ笑われた」
桜空「なるほど。私もあなたも、過去の成功体験のイメージに溺れてたってわけね」
晴琉「別にそこまでは言ってねぇって!」
桜空「成長するつれて出来なくなることが多いような気がする」
晴琉「例えば?」
桜空「そうね……。色々よ。色々」
晴琉「色々ねぇ。人前で大泣きしたり?」
桜空「もう!」
晴琉「まあまあ、とにかく困ったことあればいつでもどうぞ」
桜空「まさか! 由季ちゃんに言われてるの?」
晴琉「まさか! 短期上達法を知ってるから、伝授したいだけ」
桜空「考えとく」
晴琉「でさ、勝負はいつすんの?」
桜空「いつでも」
晴琉「OK。もう少し先ね」
晴琉、桜空に笑顔を向ける。
◯空・夕方
雷が鳴り、突然雨が降ってくる。
◯道・夕方
晴琉、空を見上げる。
晴琉「ヤバっ!」
桜空「冷たっ」
桜空、晴琉、みるみるうちに全身ずぶ濡れになる。
桜空、晴琉、顔を見合わせる。
晴琉「走るぞ!」
晴琉、走っていく。
桜空、走らずのんびり歩いている。
晴琉、桜空の所に戻る。
晴琉「何してんだよ!」
桜空「いや、濡れたついでにもっと濡れてみようかと」
晴琉「風邪引くぞ!」
桜空「音……綺麗だし」
桜空、耳を澄ましている。
晴琉、桜空の側で同じように耳を澄ます。
雨音に被せて、雨が屋根に当たる音、水たまりに当たる音など様々な音が混ざりあって聞こえる。
晴琉、笑顔で聞いてる桜空にドキドキする。
晴琉、上着を脱いで桜空に頭から被せる。
桜空、驚いて晴琉を見上げると顔を赤らめているのを見て自分も赤くなる。
晴琉、桜空の手を引いて走り出す。
桜空「待って!」
○宮本家・リビングルーム・中・夕方
タオルをターバン風にし、オーバーサイズのトレーナーに短パンの桜空、落ち着かずにソワソワしながらウロウロ歩き回っている。
桜空(家、近かったから連れてきちゃったけど、この状況よろしくないような気がする。どうしよう。大変よろしくないような気がします)
晴琉、ダボっとしたトレーナーに同じく大きな長ズボン姿で髪をタオルドライしながら入ってくる。
桜空、晴琉のバックにキラキラした星がたくさん見えて、思わず目を擦る。
晴琉「お先。シャワー、サンキュー。つーか、この服、本当に桜空の? 彼氏さんとかのじゃねぇの?」
桜空「(小声で)彼氏なんて……」
桜空(ここで、いなかったと言えば『だよな』とか言って大笑いされそう。ここは、『そう』と言っておけばなんか勝った気がする!)
桜空「そう、彼氏の!」
晴琉、服をクンクンと嗅ぐ。
晴琉「桜空の匂いするから、違うな(ニヤリとする)」
桜空「ヘンタイ!」
晴琉「じゃ、マジで彼氏いんの?」
桜空「いない」
晴琉「そっか、そっか」
晴琉、ものすごく嬉しそうにしている。
晴琉「シャワーして来いよ。体冷えちまっただろ?」
桜空「いいです」
晴琉「あんま、警戒すんなって。ここで我慢されて風邪引いたら困る」
桜空「いいです」
晴琉「全く頑固だなぁ。じゃ、とりあえず何する? 制服乾くまで」
桜空「私は練習しないと……」
晴琉「だな。ピアノどこ?」
桜空「部屋だけど」
晴琉、突然走り出して部屋を出る。
桜空、慌てて晴琉を走って追いかける。
○同・桜空の部屋・中・夜
桜空、必死で扉を押さえている。
○同・桜空の部屋・外・夜
晴琉、必死で扉を押さえている。
晴琉、扉が少しずつ開きなだれ込む。
○空・夜
雨がやむ。
○宮本家・桜空の部屋・中・夜
晴琉、床や机やあちこちに物が散乱しているのに驚いている。
桜空、肩で荒く息をしている。
晴琉、ピアノを見つける。
晴琉「あった!」
晴琉、ピアノに飛びついて蓋を開けると弾き始める。
晴琉「何、この音!」
桜空「まだ、調律してなくて……。とりあえず指練習できればいいかなって」
晴琉「してやろうか? 調律」
桜空「できるの?」
晴琉「本格的には無理だけどな」
桜空「お願いします!!」
晴琉「いつがいい?」
桜空「え? 今やってくれるんじゃないの?」
晴琉「四六時中、道具持ってるわけねぇだろ?」
晴琉、カバンの中を探る。
晴琉「あ」
× × ×
桜空、ピアノの前に座り人差し指で鍵盤をあちこち押す。
桜空「すごーい!」
桜空、満面の笑みで生き生きしている。
晴琉「ちゃんとした調律師すぐ呼べよ。なんなら、知り合い頼んどくか?」
桜空、鍵盤押すのに夢中である。
桜空「生き返ったねぇ。すごいねぇ」
桜空、指練習(ハノン)を始める。
晴琉、ビックリする。
晴琉(はぁ? ブランクあってなんでこんなに動いてんだ? ウソだろ?)
晴琉「おーい、もしもーし」
桜空、夢中で弾いていて聞こえていない。
桜空、弾きながら音に耳を澄まして微笑んでいる。
晴琉「マジかよ。ラスボス叩き起こしちまった気分」
晴琉、床に散乱しているものを片付け始める。


