(マンガシナリオ)   ハルと私のダ・カーポ

○新田家・リビング・中・夜
吾妻先生、悠の手当てをしている。
虚な目の悠。

◯学校・昇降口靴箱~廊下・朝
生徒同士が朝の挨拶を交わしている。
桜空、靴を入れている。
晴琉、側に寄ってくる。

晴琉「よう」

桜空、晴琉を見上げる。
桜空の目、泣きはらして腫れあがっている。
晴琉、大笑いしている。

桜空「ちょっと!」
晴琉「ワリィ、ワリィ。すっげぇインパクト。ガン泣き? なんで?」
桜空「映画で」

桜空(本当は映画じゃないんだけど…)

桜空「それより悠さん大丈夫?」
晴琉「今のところ、マーくんもずっと一緒にいてくれたから落ち着いてる。いやぁ、焦った。配信終わってリビング行ったら、誰かさんは帰ってるし、悠にいはボロボロだし」

桜空、晴琉、並んで歩き出す。

桜空「吾妻先生がいて良かった」
晴琉「ああ。一緒に警察署にも行ってくれたって。軽傷で済んでマジ助かった」
桜空「犯人、早く捕まって欲しいよ」
晴琉「ああ。許せねぇよな。俺が捕まえてギッタギタにしてやる」
桜空「それは、警察に任せようか」
晴琉「つーか、2度目なんだよ。誘拐されかかってんの」
桜空「誘拐なの?」
晴琉「車に押し込まれそうになったらしい。小学校の時も車で連れ去られそうになって、マーくんが機転きかせて助けたことがあるんだよ」
桜空「そうだったんだ」
晴琉「こっち戻ってきたのは、向こうでも何かあったんだと思う」
桜空「心配だね。それに引越してすぐこんな目にあったなんてやりきれないよ」
晴琉「桜空、ありがとな。悠にいのこと気にかけてくれて」
桜空「当然でしょ」

晴琉(だよな……。コイツは昔から悠にいが好きだもんな)

晴琉、暗い顔をしている。

○同・教室・中・朝
生徒たちがそれぞれ話している。
由季、入ってくる桜空に気付く。
桜空、由季に手を振る。

桜空「由季ちゃん、おはよ」
由季「おは……」

由季、目を腫らした桜空とその後ろにいる晴琉を見て顔が引きつる。
生徒たち、ざわざわし始める。

男子生徒1「晴琉、とうとうヤっちゃった?」
晴琉「は?」
男子生徒1「めっちゃ泣かせてんじゃん! ヤバ!」
晴琉「(怒って)お前、黙れ!」

男子生徒たち、面白がっている。
晴琉、男子生徒1に掴みかかって殴ろうとする。
桜空、晴琉の腕を掴む。

桜空「やめて。そんなことにいちいち反応してどうするの?」
晴琉「だって、コイツが!」
桜空「アンタだって私に同じようなことしたの! 周りを面白がらせるために人を傷つける。でも私は平気。ホントのことを分ってくれる由季ちゃんがいる」

晴琉、男子生徒1を突き放す。

晴琉「カッとなって悪かった」
男子生徒1「いや、俺こそ。宮本さん、ごめん」
桜空「どうして?(晴琉を指して)コイツに謝りなさいよ」
晴琉・男子生徒1「え?」
桜空「一番傷ついてるの、この人でしょ」
晴琉「俺?」
桜空「気付いてないの? アンタ、弱いヤツに勝って当たり前って笑われてんのよ?」
男子生徒1「いや、そういう意味ではなくて。宮本さんはどうもない……ですか?」
桜空「どうもない? あるわよ。映画見て泣いたってウソつくくらい。そう、確かにハルの動画で泣いたわ。認める。大泣きした。でも、相手が『勝負だ』って言ってないんだから。だからちゃんとした決着はまだよ!」
男子生徒1「え? あの……(どもる)」

キョトンとしている桜空。

桜空「何? それとも私がこんなヤツに負けると思ってるの? 私だってやる時は徹底的にやるんだから!」
男子生徒1「あの……」

由季、桜空の両耳を塞ぐ。

由季「(笑顔を振りまき)ごめんなさいね。ちょっと、桜空借りるからね」

由季、桜空をそのまま引っ張って教室を出る。
晴琉、男子生徒1と顔を見合わせて笑う。

男子生徒1「(呟く)可愛い、宮本さん」

晴琉、男子生徒1の頭を叩く。
男子生徒1、ビックリしている。
晴琉、もう一度男子生徒1の頭を叩く。

○同・廊下・朝
桜空、由季に引きずられるように歩いている。
人気のない所に来る桜空と由季。
由季、周りをみて桜空の耳に内緒話をする。
桜空、真っ赤になって顔を覆い、首を激しく横に振る。

○空
鳥、羽ばたいていく。

○学校・教室・中
黒板の端に『吾妻先生お休み』の文字。
学級委員、前に出て黒板に『合唱コンクールについて』と書いている。
桜空、下を向いている。

学級委員「指揮者、ピアノ伴奏者を決めます」

由季、ピンと真っ直ぐ手を上げる。

学級委員「梶田さん」
由季「指揮者に立候補します!」
学級委員「他に立候補したい人は?」

誰も手をあげない。

学級委員「指揮者に梶田さん、賛成の方は拍手」

クラス全員拍手する。

学級委員「ピアノは立候補者いませんか?」
男子生徒1「おい、晴琉〜」
晴琉「やだよ」
男子生徒1「ハルの演奏にラブラブ100パーセント〜」

男子生徒1、晴琉にハートマークを作る。

学級委員「ふざけないでください」
晴琉「伴奏者は1人ですか?」
学級委員「1人です」
晴琉「規定でそう決まってるわけじゃないんだろ? 誰かと連弾でならやるぜ。他とは違ったパフォーマンスで盛り上がりたいじゃんよ!」
女子生徒1「すっごく楽しそう!」
晴琉「だろ〜。内容はこう。小さいピアノの伴奏から始まり、次にガツンとボリューム最大で合唱が始まる。で、声が段々小さくなったとこで、俺たちの連弾のパート。その間、みんなの声が伴奏になって、最後はお互いピアノとボイスのぶつけ合いバトル! どう?」
男子生徒1「ヤバいな晴琉。今年は優勝するかも」
由季「いい! 楽しそう! ね、歌いながらダンスも入れない?」
女子生徒1「それいい!」
晴琉「ああ、いいな! ピアノの連弾のとこでみんなでダンス! 俺も弾きながら踊る!」

学級委員、教卓をバンっと叩く。

学級委員「課題曲はもう決まっているのでそんな事はできません」

残念がる生徒たち。
下を向きながらも手を上げる桜空。

学級委員「宮本さん」

桜空、立ちあがる。

桜空「今の意見、良いと思います。有志でやったらどうでしょうか?」
由季「有志ね…確かに」
晴琉「何だ? 有志って」
学級委員「合唱コンクールの採点を行なっている間、場を盛り上げる有志を募ります。通常は、ダンス、コント、劇など少人数グループで参加するのですが…」
晴琉「それぞれ持ち時間は何分?」
学級委員「毎回、有志希望者数は上下しますので、参加グループが少なければ10分程度。多いと5分以内といったところでしょうか」
晴琉「決めた! クラス全員でやろうぜ!」
学級委員「課題曲もあるのに、有志までクラス全員は無理ではないでしょうか? 有志に力が入り、課題曲が疎かになり本末転倒です」
晴琉「まあまあまあ、まだ何も始まっちゃいない。全力でやりゃあ、相乗効果が起きる可能性もある」
学級委員「練習時間の余裕は無いです。有志をクラス全員に強制しないでください」
晴琉「今まで出来なかったとこやったら、カッコよくね?」
学級委員「私のように出たくないという人もいるはずです。あなたの価値観を押し付けないでください」
晴琉「こういうのはノリでさ」
学級委員「話が逸れました。では、課題曲の伴奏者を決めます」

桜空、手を上げる。

由季「(驚いて)桜空」

学級委員「宮本さん以外いませんか?」
桜空「連弾伴奏希望します」
学級委員「ですから、それは有志で」
晴琉「まあまあ、とりあえず二人いた方が、何かあった時いいんじゃない? 主伴奏宮本さん、副伴奏俺。どう?」
学級委員「(ため息)みなさん、いかがでしょうか?」

クラス全員拍手する。

○道・夕方
桜空、由季、並んで歩いている。

由季「忙しくなるね。いやぁ、ビックリもビックリ」
桜空「だって、なんか悔しくて。由季ちゃんのダンス見たかったんだ。ハルの伴奏で」
由季「なんだかんだ言ってハルファンじゃん、桜空」
桜空「由季ちゃんファンなの」
由季「ハル動画見ないっていってたのに」
桜空「からかわないで。見たのは、勝負に勝てるよう特訓してたの」
由季「はいはーい。で、練習どうするの? ずっと弾いてないんでしょ」
桜空「そうなんだよね。どうしよう」

由季、ニヤニヤしている。

由季「最高の先生が目の前にいるじゃない」
桜空「目の前?」

晴琉、男子生徒たちと一緒に楽しそうに歩いている。

桜空「無理」
由季「無理じゃない。あ、無理か。生演奏だと泣きっぱなし?」
桜空「由季ちゃんの意地悪」
由季「新田!」
桜空「ちょっと、由季ちゃん!」

晴琉、由季と桜空に気付いて近づいてくる。

晴琉「何? 怒られるの? 俺」
由季「桜空との勝負、いつするの?」
晴琉「別にいつでも」
由季「じゃ、今から」

晴琉、チラッと桜空を見る。
桜空、由季の後ろに隠れる。

晴琉「本人、嫌がってんのに?」
桜空「別に、嫌じゃない」
晴琉「やっぱ、もうちょっと先にしとく。伴奏頑張れよ」

晴琉、桜空の頭にポンと手のひらを乗せる。
晴琉、男子生徒たちのところへ走って行く。

桜空、真っ赤になっている。

桜空「馬鹿にして……。待っててよ。いつかピアノで勝負してやるから」
由季「桜空、ファイト! 恋もピアノも」
桜空「恋は余計!」

桜空、由季、お互い顔を合わせて笑う。