◯道・夕方
桜空、キャプテンをわしゃわしゃとなでまわす。
キャプテン、桜空の顔をペロペロなめる。
悠、疲れ果てた様子で走ってくる。
悠「(情けない声)待ってよ、キャプ〜」
桜空「悠さん?! 大丈夫ですか?」
悠「桜空さん? 捕まえててくれてありがとう。キャプ! ほら、こっちおいで」
キャプテン「うぅぅぅ」
キャプテン、桜空から離れようとしない。
悠、無理やり引き剥がそうとすると、キャプテンは身をよじったり手足をばたつかせて桜空にしがみつく。
途方に暮れる悠。
桜空「お散歩大変ですね?」
悠「そうなんだよ。晴琉の言うことはよく聞くんだけどね。僕はこの通り」
桜空「あらら……」
キャプテン、桜空にべったりひっついている。
由季、桜空とキャプテンを覗き込んでいる。
由季「この様子だと、桜空から絶対離れないカンジですね」
悠「困ったな……。お買い物にも行かないと」
桜空「もしよかったら、お家までキャプテン送りますよ」
悠「もうすぐ晴琉も帰る時間だし、そうしてくれると助かるけれど。でも、家わかる?」
桜空「あ……」
吾妻先生、歩いてくる。
吾妻先生「おーい、宮本、梶田、何してんだ?」
由季「今から、新田家へ犬をお届けに」
桜空「全然離れてくれないんです」
吾妻先生「キャプテン? げっ! 悠?!」
悠「人の顔見て、それは失礼じゃないかい?」
悠、不機嫌を爆発させて吾妻を睨みつける。
吾妻先生「ハハハハ…。どれどれキャプテンおいで」
吾妻先生、桜空からキャプテンを引き剥がそうとするが、微動だにしない。逆にキャプテンからガシガシ攻撃にあってしまう。
吾妻先生「痛ってぇ……」
悠、呆れた顔で吾妻を見ている。
吾妻先生「あ……、オレ…用事思い出したから、じゃあ」
吾妻先生、逃げようとすると、悠に首根っこを捕まえられる。
悠、怒りを含んだ笑顔を吾妻へ向ける。
悠「彼女たちを、新田家へエスコートよろしく」
吾妻先生「は、はい」
悠、腕時計を見る。
悠「あっ、特売の時間!」
桜空「大変! 急いでください」
悠「ありがとう。では。みなさん、よろしくお願いしますね」
悠、急いで走ってあっという間に向こうに行ってしまう。
桜空、由季、吾妻先生、悠の背中を見送っている。
× × ×
桜空、キャプテンを抱っこしなおす。
桜空、由季、並んで歩いている。
吾妻先生、その後ろを歩いている。
吾妻先生「後はこの道、しばらくまっすぐ行って、青い屋根の家を右に行ってまた直進だ」
桜空「キャプテン、もうすぐお家だよ」
キャプテン「くぅぅん」
電話が鳴る。
由季、ポケットからスマホを取り出す。
由季「もしもし…」
まだ電話が鳴り続けている。
吾妻先生、スマホを取り出す。
吾妻先生「どうした?」
◯空・夕方
夕焼け空に1番星が出ている。
◯道・夜
桜空、キャプテンを抱っこしたまま1人歩いている。
桜空(人、全然歩いてなくてちょっと怖いな……)
桜空「キャプテン、寂しいね。道、合ってるかな? こっち?」
キャプテン「わうわうわうわう!」
桜空「どうしたの? ちょっと、暴れないで。お願い」
晴琉「桜空? キャプテン?」
晴琉、桜空の後ろに立っている。
桜空「あ、あの。キャプテンをお届けに」
晴琉「なんだ、お前、また脱走したんか? 悠にいは?」
桜空「買い物に」
晴琉、キャプテンの頭をなでて、桜空からキャプテンを預かろうとするが、キャプテンが桜空から離れようとしない。
晴琉「キャプテン、どした? 俺より桜空の方がいいのか?」
キャプテン「わふっ!」
晴琉「おい、どうやって手懐けたんだ?」
桜空「別に何もしてません。とりあえずキャプテンのお家までお供させていただきます」
晴琉「サンキューな。ここまで1人で来たのか?」
桜空「由季ちゃんと、吾妻先生と一緒に」
晴琉「は? いねぇじゃん?」
桜空「由季ちゃんは、バイト先の人が風邪でその穴埋めに、吾妻先生は電話の後に血相変えてどこか行っちゃって…」
晴琉「そっか。不安だったろ?」
桜空、晴琉のセリフにドキッとする。
桜空「ううん、全然。キャプテンが一緒だからね」
桜空、歩きながらキャプテンを見て微笑む。
晴琉、桜空を見てドキッとする。
◯新田家・玄関・外・夜
桜空、キャプテンを覗き込んでいる。
キャプテン、気持ちよさそうに寝息をたてている。
桜空「(小声で)寝ちゃった」
晴琉「そっと、こっちに」
晴琉、キャプテンを起こさないように注意深く桜空からキャプテンを抱き上げる。
晴琉「じゃ、また明日」
桜空「うん。また明日」
晴琉「あのさ、まだ時間ある? 例の勝負、今しねぇ?」
桜空「今?」
晴琉「実は悠にいが持ってきたピアノ、スッゲェ良い音なんだよ。この前、夕飯もご馳走なったし、こっちで食ってけば? 悠にいの飯もウマいぜ?」
桜空「音出したらキャプテン起きちゃうよ?」
晴琉「平気。寝たらコイツなかなか起きねぇもん。それに、ピアノんとこは防音だ」
桜空「……でも」
晴琉「じゃ、勝負抜き。音だけでも聞いていかねぇ? 絶対後悔はさせねぇ」
桜空(聞いてみたいよ。でも……)
× × ×
ピアノコンクール会場。小さな晴琉が叫ぶ。
晴琉「それがテメェの音楽かよ! サイテーだな!!」
× × ×
桜空「帰る」
桜空、顔が一瞬で暗くなり歩き出す。
晴琉、桜空の様子がおかしいことに気付き追いかける。
晴琉「桜空?」
桜空「もう、放っておいて! ピアノなんか聞きたくないし、本当はあなたの顔だって見たくないの」
晴琉「許せないって言ってたよな? 許さなくったっていい。言いたいことがあったら全部俺にぶちまけてみろよ」
桜空「酷いこと言った」
晴琉「俺? 確かに。口悪いのは自覚ある。ごめん」
桜空「すぐ話しかけてくるし、馴れ馴れしい」
晴琉「桜空と話したいんだからしょうがねぇだろ? いや、ごめん。うぜーよな」
桜空「コンクールの時!」
桜空、黙り込んでしまう。
晴琉「コンクール?」
桜空「……何でもない」
晴琉「優勝は優勝だろ? お前が一位だった」
桜空「一位? ウソまみれの一位じゃない! ねぇ、教えてよ! 私の音楽って何?!」
桜空、今にも泣きそうな顔で晴琉を鋭い目で見る。
晴琉、切なそうに桜空を見つめる。
晴琉「……来い」
晴琉、桜空の手を引っ張る。
うなだれている桜空、晴琉に引っ張られていく。
○新田家・リビング・中・夜
広いリビングにダイニングテーブル、ソファー、大きなテレビ、大きなスピーカーがある。
キャプテン、リビングのソファーで寝ている。
晴琉、カップを桜空の前に出す。
桜空、カップに口をつける。
晴琉「どう?」
桜空「(小声で)……美味しい」
晴琉「気にいると思った。小さい頃、悠にいが俺を元気付けるためによく作ってくれたんだ…特製ホットミルク」
桜空「そう……。これ、牛乳に砂糖?」
晴琉「牛乳にコンデンスミルクとバニラシロップを少し」
桜空「おかわりしたいくらい」
晴琉「いくらでもどうぞ」
時計の秒針の音が響く。
晴琉「俺さ、昔、ピアノ弾いてても全然面白くない時があってさ」
桜空「……」
晴琉「何のために毎日6時間も弾くのか。だってよ、周りの子たちはみんな一緒に遊んでんだぜ?」
桜空「そんなに弾いていたんだね」
晴琉「いよ、もっと弾いてたかもな……。ただ弾いてるだけだった。でも、お前と連弾した時、目の前に景色が見えた。森、小鳥、跳ねるウサギ、歌う動物たち……」
桜空「(笑って)何それ」
晴琉「最初はウソだと思ったけど、何回か一緒に弾いてて、俺は桜空の世界に遊びに行ってたんだって気付いた」
桜空「……そんなの作ってないよ」
晴琉「意図的に作れるもんじゃねぇ。お前の音が、そう導くんだ」
晴琉、ミルクの入ったピッチャーをテーブルに置く。
晴琉「助けられた。面白くないループから抜け出せたんだ。桜空のおかげで」
桜空「それなら、何であの時」
晴琉「どうしても勝って、お前に言いたい事があったし、色々悔しくてな……」
晴琉の腕時計から電子音がする。
晴琉「あ…、ワリィ…。ゆっくりしてって。俺、今から生配信だから」
桜空「ごめん。帰る」
桜空、立ちあがろうとする。
晴琉、桜空を制止する。
晴琉「悠にいももうすぐ戻ってくるだろうし。ゆっくり飲んでて」
桜空「でも…」
晴琉「じゃあ、配信するとこ、見る?」
桜空「あ……。ううん…、ここでいい…です」
晴琉「そっか!残念。キャプテン起きたら、遊んでやって?」
桜空、頷く。
晴琉、部屋を出る。
部屋に時計の針の音が響く。
桜空「お母さんに連絡しとこ」
桜空、ポケットからスマホを出す。
桜空、アプリを開いてメッセージを書いて送信する。
桜空、テーブルにスマホを置くと、しばらく見つめている。
桜空(生配信なんだよね? 今、弾いてる? 音しないけど……。あ、防音か)
桜空、動画サイトにアクセスする。
スマホ画面には、ハルがピアノを弾いている動画が流れてくる。
(フレデリック・ショパン ポロネーズ第6番変イ長調 作品53 『英雄ポロネーズ』のようなダイナミックな曲)
桜空、食い入るように動画を見ている。
桜空(すごいな…やっぱりすごいよ……)
桜空、胸を押さえる。
桜空、涙が次々とスマホの画面に落ちる。
大きな物音がする。
桜空、ハッとして涙を慌てて拭く。
悠、吾妻先生、雪崩れ込むように入ってくる。
悠、あちこち怪我をし、服も破れているため吾妻先生の上着を羽織っている。
桜空「何があったんですか?」
吾妻先生「宮本、すまないが今日はもう家に帰ってくれ」
桜空「はい……」
桜空、急いで部屋を出る時、悠を見る。
悠、震えている。
桜空(大丈夫だよね?)
桜空、キャプテンをわしゃわしゃとなでまわす。
キャプテン、桜空の顔をペロペロなめる。
悠、疲れ果てた様子で走ってくる。
悠「(情けない声)待ってよ、キャプ〜」
桜空「悠さん?! 大丈夫ですか?」
悠「桜空さん? 捕まえててくれてありがとう。キャプ! ほら、こっちおいで」
キャプテン「うぅぅぅ」
キャプテン、桜空から離れようとしない。
悠、無理やり引き剥がそうとすると、キャプテンは身をよじったり手足をばたつかせて桜空にしがみつく。
途方に暮れる悠。
桜空「お散歩大変ですね?」
悠「そうなんだよ。晴琉の言うことはよく聞くんだけどね。僕はこの通り」
桜空「あらら……」
キャプテン、桜空にべったりひっついている。
由季、桜空とキャプテンを覗き込んでいる。
由季「この様子だと、桜空から絶対離れないカンジですね」
悠「困ったな……。お買い物にも行かないと」
桜空「もしよかったら、お家までキャプテン送りますよ」
悠「もうすぐ晴琉も帰る時間だし、そうしてくれると助かるけれど。でも、家わかる?」
桜空「あ……」
吾妻先生、歩いてくる。
吾妻先生「おーい、宮本、梶田、何してんだ?」
由季「今から、新田家へ犬をお届けに」
桜空「全然離れてくれないんです」
吾妻先生「キャプテン? げっ! 悠?!」
悠「人の顔見て、それは失礼じゃないかい?」
悠、不機嫌を爆発させて吾妻を睨みつける。
吾妻先生「ハハハハ…。どれどれキャプテンおいで」
吾妻先生、桜空からキャプテンを引き剥がそうとするが、微動だにしない。逆にキャプテンからガシガシ攻撃にあってしまう。
吾妻先生「痛ってぇ……」
悠、呆れた顔で吾妻を見ている。
吾妻先生「あ……、オレ…用事思い出したから、じゃあ」
吾妻先生、逃げようとすると、悠に首根っこを捕まえられる。
悠、怒りを含んだ笑顔を吾妻へ向ける。
悠「彼女たちを、新田家へエスコートよろしく」
吾妻先生「は、はい」
悠、腕時計を見る。
悠「あっ、特売の時間!」
桜空「大変! 急いでください」
悠「ありがとう。では。みなさん、よろしくお願いしますね」
悠、急いで走ってあっという間に向こうに行ってしまう。
桜空、由季、吾妻先生、悠の背中を見送っている。
× × ×
桜空、キャプテンを抱っこしなおす。
桜空、由季、並んで歩いている。
吾妻先生、その後ろを歩いている。
吾妻先生「後はこの道、しばらくまっすぐ行って、青い屋根の家を右に行ってまた直進だ」
桜空「キャプテン、もうすぐお家だよ」
キャプテン「くぅぅん」
電話が鳴る。
由季、ポケットからスマホを取り出す。
由季「もしもし…」
まだ電話が鳴り続けている。
吾妻先生、スマホを取り出す。
吾妻先生「どうした?」
◯空・夕方
夕焼け空に1番星が出ている。
◯道・夜
桜空、キャプテンを抱っこしたまま1人歩いている。
桜空(人、全然歩いてなくてちょっと怖いな……)
桜空「キャプテン、寂しいね。道、合ってるかな? こっち?」
キャプテン「わうわうわうわう!」
桜空「どうしたの? ちょっと、暴れないで。お願い」
晴琉「桜空? キャプテン?」
晴琉、桜空の後ろに立っている。
桜空「あ、あの。キャプテンをお届けに」
晴琉「なんだ、お前、また脱走したんか? 悠にいは?」
桜空「買い物に」
晴琉、キャプテンの頭をなでて、桜空からキャプテンを預かろうとするが、キャプテンが桜空から離れようとしない。
晴琉「キャプテン、どした? 俺より桜空の方がいいのか?」
キャプテン「わふっ!」
晴琉「おい、どうやって手懐けたんだ?」
桜空「別に何もしてません。とりあえずキャプテンのお家までお供させていただきます」
晴琉「サンキューな。ここまで1人で来たのか?」
桜空「由季ちゃんと、吾妻先生と一緒に」
晴琉「は? いねぇじゃん?」
桜空「由季ちゃんは、バイト先の人が風邪でその穴埋めに、吾妻先生は電話の後に血相変えてどこか行っちゃって…」
晴琉「そっか。不安だったろ?」
桜空、晴琉のセリフにドキッとする。
桜空「ううん、全然。キャプテンが一緒だからね」
桜空、歩きながらキャプテンを見て微笑む。
晴琉、桜空を見てドキッとする。
◯新田家・玄関・外・夜
桜空、キャプテンを覗き込んでいる。
キャプテン、気持ちよさそうに寝息をたてている。
桜空「(小声で)寝ちゃった」
晴琉「そっと、こっちに」
晴琉、キャプテンを起こさないように注意深く桜空からキャプテンを抱き上げる。
晴琉「じゃ、また明日」
桜空「うん。また明日」
晴琉「あのさ、まだ時間ある? 例の勝負、今しねぇ?」
桜空「今?」
晴琉「実は悠にいが持ってきたピアノ、スッゲェ良い音なんだよ。この前、夕飯もご馳走なったし、こっちで食ってけば? 悠にいの飯もウマいぜ?」
桜空「音出したらキャプテン起きちゃうよ?」
晴琉「平気。寝たらコイツなかなか起きねぇもん。それに、ピアノんとこは防音だ」
桜空「……でも」
晴琉「じゃ、勝負抜き。音だけでも聞いていかねぇ? 絶対後悔はさせねぇ」
桜空(聞いてみたいよ。でも……)
× × ×
ピアノコンクール会場。小さな晴琉が叫ぶ。
晴琉「それがテメェの音楽かよ! サイテーだな!!」
× × ×
桜空「帰る」
桜空、顔が一瞬で暗くなり歩き出す。
晴琉、桜空の様子がおかしいことに気付き追いかける。
晴琉「桜空?」
桜空「もう、放っておいて! ピアノなんか聞きたくないし、本当はあなたの顔だって見たくないの」
晴琉「許せないって言ってたよな? 許さなくったっていい。言いたいことがあったら全部俺にぶちまけてみろよ」
桜空「酷いこと言った」
晴琉「俺? 確かに。口悪いのは自覚ある。ごめん」
桜空「すぐ話しかけてくるし、馴れ馴れしい」
晴琉「桜空と話したいんだからしょうがねぇだろ? いや、ごめん。うぜーよな」
桜空「コンクールの時!」
桜空、黙り込んでしまう。
晴琉「コンクール?」
桜空「……何でもない」
晴琉「優勝は優勝だろ? お前が一位だった」
桜空「一位? ウソまみれの一位じゃない! ねぇ、教えてよ! 私の音楽って何?!」
桜空、今にも泣きそうな顔で晴琉を鋭い目で見る。
晴琉、切なそうに桜空を見つめる。
晴琉「……来い」
晴琉、桜空の手を引っ張る。
うなだれている桜空、晴琉に引っ張られていく。
○新田家・リビング・中・夜
広いリビングにダイニングテーブル、ソファー、大きなテレビ、大きなスピーカーがある。
キャプテン、リビングのソファーで寝ている。
晴琉、カップを桜空の前に出す。
桜空、カップに口をつける。
晴琉「どう?」
桜空「(小声で)……美味しい」
晴琉「気にいると思った。小さい頃、悠にいが俺を元気付けるためによく作ってくれたんだ…特製ホットミルク」
桜空「そう……。これ、牛乳に砂糖?」
晴琉「牛乳にコンデンスミルクとバニラシロップを少し」
桜空「おかわりしたいくらい」
晴琉「いくらでもどうぞ」
時計の秒針の音が響く。
晴琉「俺さ、昔、ピアノ弾いてても全然面白くない時があってさ」
桜空「……」
晴琉「何のために毎日6時間も弾くのか。だってよ、周りの子たちはみんな一緒に遊んでんだぜ?」
桜空「そんなに弾いていたんだね」
晴琉「いよ、もっと弾いてたかもな……。ただ弾いてるだけだった。でも、お前と連弾した時、目の前に景色が見えた。森、小鳥、跳ねるウサギ、歌う動物たち……」
桜空「(笑って)何それ」
晴琉「最初はウソだと思ったけど、何回か一緒に弾いてて、俺は桜空の世界に遊びに行ってたんだって気付いた」
桜空「……そんなの作ってないよ」
晴琉「意図的に作れるもんじゃねぇ。お前の音が、そう導くんだ」
晴琉、ミルクの入ったピッチャーをテーブルに置く。
晴琉「助けられた。面白くないループから抜け出せたんだ。桜空のおかげで」
桜空「それなら、何であの時」
晴琉「どうしても勝って、お前に言いたい事があったし、色々悔しくてな……」
晴琉の腕時計から電子音がする。
晴琉「あ…、ワリィ…。ゆっくりしてって。俺、今から生配信だから」
桜空「ごめん。帰る」
桜空、立ちあがろうとする。
晴琉、桜空を制止する。
晴琉「悠にいももうすぐ戻ってくるだろうし。ゆっくり飲んでて」
桜空「でも…」
晴琉「じゃあ、配信するとこ、見る?」
桜空「あ……。ううん…、ここでいい…です」
晴琉「そっか!残念。キャプテン起きたら、遊んでやって?」
桜空、頷く。
晴琉、部屋を出る。
部屋に時計の針の音が響く。
桜空「お母さんに連絡しとこ」
桜空、ポケットからスマホを出す。
桜空、アプリを開いてメッセージを書いて送信する。
桜空、テーブルにスマホを置くと、しばらく見つめている。
桜空(生配信なんだよね? 今、弾いてる? 音しないけど……。あ、防音か)
桜空、動画サイトにアクセスする。
スマホ画面には、ハルがピアノを弾いている動画が流れてくる。
(フレデリック・ショパン ポロネーズ第6番変イ長調 作品53 『英雄ポロネーズ』のようなダイナミックな曲)
桜空、食い入るように動画を見ている。
桜空(すごいな…やっぱりすごいよ……)
桜空、胸を押さえる。
桜空、涙が次々とスマホの画面に落ちる。
大きな物音がする。
桜空、ハッとして涙を慌てて拭く。
悠、吾妻先生、雪崩れ込むように入ってくる。
悠、あちこち怪我をし、服も破れているため吾妻先生の上着を羽織っている。
桜空「何があったんですか?」
吾妻先生「宮本、すまないが今日はもう家に帰ってくれ」
桜空「はい……」
桜空、急いで部屋を出る時、悠を見る。
悠、震えている。
桜空(大丈夫だよね?)


