(マンガシナリオ)   ハルと私のダ・カーポ

◯(回想)コンクール会場・中
桜空、トロフィーを持って誰かを探すように走っている。
悠、関係者室前の窓の側で立っている。
桜空、悠に駆け寄る。

桜空「あの…助けてくれてありがとうございました」
悠「ああ。キミか。おめでとう。頑張ったね」
桜空「あの…いつか、悠さんの指揮で演奏したいです」

悠、一瞬驚くが、すぐに笑顔になる。

悠「それはそれは光栄です。それなら僕も全力で頑張らないとね。よろしくお願いします。小さなピアニストさん」

悠、桜空に手を差し出す。
桜空、悠の手を握る。
悠、握手をした後、桜空の頭をポンポンと優しく触れその場を去る。
桜空、嬉しさを噛み締めているところに怒っている晴琉が走って来る。

晴琉「おい! なんだよあの演奏」
桜空「え?」
晴琉「ふざけんなよ! テクニックばっか披露しやがって、なんも面白くねえ! 聞いてて楽しくもねえ! ヘタクソ!」
桜空「でも…」
晴琉「でも優勝したってか? ははっ、俺は後悔してねえよ。お前より楽しく弾けたからな!」
桜空「私、楽しかったよ」
晴琉「ウソつけ」
桜空「(泣きながら)楽しかったもん!」
晴琉「ウソだ。俺の耳はだませねえぞ。先生の音源通り完コピだったじゃねーか!!」
桜空「それは…先生がそうしろって」
晴琉「お前は違うと思ってた」
桜空「だって…」
晴琉「だってもクソもねえ! それがテメェの音楽かよ! サイテーだな!!」

桜空、大声をあげて泣く。
(回想終わり)

◯宮本家・桜空の部屋・中・夜
桜空、ベッドの中にもぐって泣いている。

桜空(もう、思い出したくないのに……。そう、私はサイテー……)

◯学校・廊下
桜空、歩いている。
周りの生徒たち、桜空を見てヒソヒソ話をしている。
桜空、それに気づいて下を向き、足早に彼らの側を通る。
晴琉、桜空に気付く。

晴琉「(大声で)桜空! 吾妻先生が職員室に来いって」
桜空「…ちょっと、わかったから。声大きすぎ」
晴琉「(大声で周りに見せつけるように)俺も書類出しに行くから、一緒に行こうぜ、桜空」

晴琉、桜空の横を陣取って歩く。
周りの生徒たち、ヒソヒソ話している。
晴琉、彼女らの側を通り過ぎる。
晴琉、立ち止まって彼女らの方を振り向く。

晴琉「何話してんの?」
女子生徒1「別に何も…」
晴琉「今日さ、新しい動画アップするから、よかったら見てくれよな」

晴琉、ウィンクをする。

女子生徒たち「(赤くなって)う、うん」

晴琉、周りの生徒に愛嬌を振りまく。
桜空、足早に晴琉よりどんどん先へ行く。
晴琉、それに気付き桜空を追いかけるがすでに桜空の姿は無い。

◯同・職員室・中
桜空、吾妻先生のデスクへ向かう。
吾妻先生、桜空に気付く。

吾妻先生「おう、宮本。どうした」
桜空「先生がお呼びだと聞きました」
吾妻先生「呼び出し? してないぞ?」

晴琉、息を切らして走って入ってくる。

晴琉「足、速すぎ」
吾妻先生「どうした? お前まで」
晴琉「何でもないです! 失礼しました」

吾妻先生、首を傾げて出ていこうとしている晴琉と桜空を見ている。

吾妻先生「何してんだ、アイツら」

晴琉、慌てて桜空を引っ張って職員室を出る。

◯同・廊下
晴琉、桜空の腕を引っ張りながら歩く。
桜空、大人しく引っ張られながら晴琉の後をついて行く。

桜空(もしかして、さっき助けてくれた?)

桜空、胸の奥がキュンとなる。
晴琉、空き教室を見つけ、桜空を連れて入る。
桜空、晴琉についていく。

◯同・空き教室・中
晴琉、中に入ると慌てて桜空の腕を離す。
桜空、晴琉に掴まれていたところじっと見ている。

晴琉「本当ごめん。ここまで周りがうるさくなるなんてな。俺、考えなしだった。(両手を合わせて)悪かった」
桜空「慣れてるから。気にしないで」
晴琉「慣れてるって?」
桜空「周りから変な目で見られること」
晴琉「そんなこと言うなよ。誰も変だなんて思ってねぇよ。少なくとも、俺は全然思ってねぇ」
桜空「みんなそう言うけど、心の中ではそう思ってないから」
晴琉「そう言うとこだろ? 変人って言われるのは。考えすぎなんだよ。そういえば、小さい頃キモい桃のキャラクターをカワイイとか言ってたよな」

桜空、晴琉を睨みつける。

晴琉「(焦って)勘違いすんなよ。人と違うとこを隠さずに自分貫いてるのが、すげぇイイって言ってんの」
桜空「どうも。この際だから言うけど、私はあなたが大嫌いだし、これからは無視してほしい」
晴琉「わかった。それだけ?」
桜空「(戸惑って)そうだけど」

桜空(なんだ…案外、いいヤツかも)

桜空「さっきは気を遣わせちゃったね。ありがとう。勘違いしないで。これ以降は無視でね」

晴琉、ケロッとした表情から厳しい顔になる。
桜空、行こうとすると、晴琉、桜空の腕を掴む。
桜空、晴琉を睨む。

桜空「何?」
晴琉「ワリィ。頭では分かってんだ。俺はお前に嫌われている。でも俺は……嫌いになれないし、お前の……宮本桜空のピアノがもう一度聞きたい」
桜空「無理だよ。もう弾けないの」
晴琉「勝負しよう」
桜空「弾けないって言ってるでしょ! 勝負にならない」
晴琉「俺の演奏を聞いて、桜空が泣いたら負け」
桜空「何それ。全然フェアじゃない」
晴琉「フェアだろ? 弾くのは俺だけなんだから」
桜空「勝ったらどうするつもり?」
晴琉「また、一緒に連弾したい」

桜空、呆れた顔をしている。

桜空「だから…」
晴琉「(必死になって)弾けるまで待つし、なんなら俺が手伝う。だから、頼む!」

晴琉、真剣な眼差しで桜空にお願いする。
桜空、複雑な表情をしている。

桜空「どうして?」
晴琉「前、桜空と連弾した時の音が、全然頭から離れなくて。あれからずっとだぜ? 一日中頭ん中でリピートしてる時もある」
桜空「冗談でしょ?」
晴琉「重症だろ?」
桜空「他の中毒性いっぱいの曲聞いた方がいいよ」
晴琉「試したさ。ありとあらゆる曲を。流行ってるのも、動画でバズってるのも」
桜空「……連弾したら、忘れられそう?」
晴琉「絶対そうだとはっきり言えねぇけど。助けてくれよ」
桜空「わかった。私が泣いたら連弾ね。本当にもう指動かないから簡単な曲にしてよね」

晴琉、嬉しそうな顔をしている。

桜空「今度は何?」
晴琉「もう、勝負しなくてよくね?」
桜空「え?」
晴琉「『簡単な曲にしてよね』って」
桜空「(怒って)そっちが勝負って言い出したんじゃない! だいたい、私、泣き虫じゃないし勝ったら弾かなくていいし、2度とあんたと話さなくていいんでしょ?」
晴琉「なんか増えてね?」
桜空「泣かせる自信無いんでしょ?」
晴琉「あるに決まってんだろ! お前が泣きはらした目で登校してくんのが楽しみだぜ」
桜空「はあ? んなわけないでしょ! 勝ったら、あんたを泣かせてやるから!」

晴琉、ニヤニヤしている。

桜空「何?」
晴琉「めっちゃ話せてマジ嬉しい」
桜空「(大声で)キッッッモッ!!」

桜空、怒って出ていく。
晴琉、その場にへなへなと座る。

晴琉「やっべぇ、マジ可愛い」

晴琉、笑っている。

◯道・夕方
桜空、由季と並んで歩いている。

由季「どした? めっちゃ機嫌良くない?」
桜空「別に。いつもと変わらないけど」

由季、横から正面から後ろから桜空を観察する。

由季「ハートみたいなオーラ見える」
桜空「気のせい」
由季「じゃあ、ハルと痴話喧嘩?」

桜空、由季を軽く睨みつける。

由季「(指差して)あ! 犬!」
桜空「犬?」

キャプテン、桜空めがけて全力で走ってくる。

キャプテン「わふっ!!」

キャプテン、桜空に飛びつく。
桜空、しりもちをつく。

桜空「あれ? キャプテン!」