しばらくして肩を揺すられ、イザベラは眠い目を擦った。
「起きろ」
「あ、私、眠っちゃって……」
「雲行きが怪しくなってきた」

 眠る前はあれほど晴れていたのに、今は暗い。
 湧きあがった黒雲が太陽と青空を覆っていた。

「この調子だと、一雨くる」
「わ、分かりました」

 イザベラが立ち上がったその時、ぽつり、と鼻の頭で雨粒が弾けた。
「……あ」

 遅かった。
 空が明るくなる。
 少し遅れてゴロゴロと嫌な音が鳴ったかと思えば、桶をひっくり返すような土砂降りに襲われてしまう。

「イザベラ、こっちだ」

 右手で馬の轡を、左手でイザベラの手を引き、ジークベルトは駆け出すと、横穴に避難した。

「ここで待て」

 ジークベルトは出入り口にイザベラと馬とを待たせると、暗闇の中を警戒するように目を向ける。
 固唾を呑んで見守っていると、「巣穴じゃないようだ」という呟きに、全身から力を抜く。

 ジークベルトと並ぶようにしてその場に座った。
 彼は胡座で、イザベラは膝を抱える。

 二人とも濡れねずみ。
 さっきまで涼しかったはずなのに寒い。

 思わず手を擦り合わせ、息を吐きかける。
 と、ジークベルトの腕が肩に伸ばされ、抱き寄せられた。

「っ! ジーク様?」
「こうしたほうが多少は温かいだろう」
「……確かにそうですね」

 いきなりの行動に驚き、鼓動が跳ねた。
 確かゲーム中も、ヒロイン相手にこういうことをしていたシーンがあった。

 夏服の薄い生地ごしに、彼の鍛えられた体を感じる。
(まさに、水もしたたるいい推し、ねっ)

 水を吸って顔に張り付いた銀髪は、鳴り響く雷鳴を浴びてきらりと光ってとても美しかった。
 彼のウルフアイも同じ。

「私が見て回りたいって行ったばっかりにごめんなさい」
「ただの夕立だ。すぐやむ」

 と、ジークベルトが妙に真剣な目つきで見てくる。

 自分の体を見て、はっとした。
 雨で濡れたドレスが肌に張り付いて、下着が透けてしまっている。

「すみません。こ、こんな姿で……」

 悪女の半裸など目の毒だろう。
 イザベラはジークベルトの目に付かないよう自分の体を抱きしめ、距離を取ろうとしたが、肩に回された彼の腕がそれを許してくれなかった。

 金色の猟犬の眼差しが、イザベラの瞳を見つめる。
 誰かからかそんなに見つめられることには馴れておらず、顔を伏せようとしたが、それをやめさせようとするように手が顎にかかった。

 軽くだが上向かされる。

「じ、ジーク様……?」