ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

「……くっ」

 ジークベルトは、あまりの息苦しさに仮面を外した。
 心臓が今にも壊れそうなくらい早鐘を打つ。

 どれほど激しく体を動かしてもこんなことになったことなどなかったのに。
 混乱してしまう。

 鼓動の乱れは、イザベラが不意に抱きついてきた時から。
 女と接したのは別にこれが初めてという訳でも何でもない。

 暗殺の標的に近づくために女を籠絡することだってこれまでにしてきた。
 だがそんな時は何も起こらなかった。

 鼓動が騒がしくなったなどないし、感情が揺らぐこともなかった。
 そして女の柔らかな声が耳の奥に残ることも。

 自分の中の何かがおかしい。
 あの夜会の夜、いや、誕生日の夜から──。