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 膝枕をしたからといって、別に彼との関係が何か変化すると言うことは全くなかった。以前と変わらず、同じクラスにいても会話はしない。白綾君は窓際の席でダルそうに椅子にもたれ、ヘッドホンで何かの曲を聞いている。

 机の上にはお菓子の包装紙が散らばっていて、授業中でも何か食べているんだけど注意されてもやめようとしなかった。まともに授業なんて聞いてなさそうなのに、あれでなかなか成績が良いのは一体どういうマジックなんだろう?

 うちのクラスに女子は私ともう一人。紗菜という子がいる。女子が二人きりというのもあって、私と紗菜は自然と仲良くなった。確か、紗菜は小中学校と白綾君と同じだったと聞いている。

 どんな人だったのか教えてもらおうかと思い、一緒に学食でお昼を食べている時にそれとなく話をふってみた。

「白綾君? 話したことないけどそりゃ少しは知ってるよ。え? 何? 小春って白綾君が気になってるの?」
「ち、違う違う。白綾君、喧嘩強いみたいだし目立つけど、謎も多いでしょ? 同じクラスだけどよく知らないから、どんな人なのかなってふと思っただけだよ……」

 とてもではないけど、紗菜に膝枕の件は話せない。その前に起きたことは伏せておきたいというのもあった。私のおしとやかな普通女子高生ライフを乱したくはないのだ。――白綾君のおかげで、ちょっと乱れ始めてるけど。

 私の知ってる白綾君の情報と言えば、喧嘩が強い、顔が綺麗、気分屋、あんまり他人とつるまない、甘いお菓子が好き。くらいだろうか。

「白綾君って、小学生の頃は顔のことでからかわれてたんだよ。すっごい美少年だったからさ。ああ見えて子供の頃はおとなしかったから。中学に上がってからはやたらと強くなっちゃって、誰も白綾君にナメた口きいたりはしなくなったけど」

 いくら食べても太らない体質の紗菜は、大盛りのカツカレーをがつがつと食べている。

「中学の頃は周りから怖がられてたんだ、あの人。得体の知れない感じするでしょ? 暴走族を何人も病院送りにしたとか、憂さ晴らしに気に入らない奴殴ってるとか、どこまでほんとかわからない噂もいっぱいあったし。まーでもさ、白綾君って二人兄弟で母子家庭で、苦労したって聞くよ」
「へえ」

 先にミートソースのパスタを食べ終わった私は、水を飲みながら相づちを打っていた。

「お母さんも亡くなってるしね」
「……え?」
「中学に入る前だったかな。弟と二人、おじいちゃんとおばあちゃんに育てられてるんだって。ああ見えて白綾君って、バイトしてるんだよ。家計を助けるためかなぁ。見かけによらないよねぇ」