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早川というのは私のお母さんの旧姓だ。中学卒業すると同時に両親が別れ、私は母の旧姓を名乗ることとなった。それで良かったと思う。
うちの中学は荒れに荒れていて有名で、暴力沙汰は日常茶飯事。私は周囲の不良達に感化されて万引きや飲酒、喫煙なんかには全く手を出さなかった。
悪いことには手を出さなかったんだけど、暴力の方での手は出た、ので、優等生ではなかったかもしれない。
でも、全部正当防衛だ。殴りかかられたから殴ったし、イジメられてる誰かを助けるために跳び蹴りをした。
そして私は学校を牛耳る先輩不良グループを密かにボコボコにして、「反逆の姫」とかいう最高にダサいあだ名をつけられて称えられる羽目になったのだった。
不良グループが本当に酷い連中だったので周りも気をつかってくれて、どうにか警察沙汰にならずに済んだ。
だけどもう、やたらと崇められるのも嫌だし、誰かと揉めるのも嫌だし、高校に入ってからはおとなしくしていようと決めたんだ。
私は、清楚でおとなしい女子高生になりたかった。上段回し蹴りも決めないし、右ストレートもぶっ放さない。念入りに髪のケアをして、コスメに気を使う女の子になりたかった。髪を雑に結んでメンチ切り合う青春とはもうおさらばしたい!
希望する学科のある高校が、まさかヤンキー達に溢れているとは予想外だったけど。まあ、私が喧嘩をして目立たなければいいだけだ。通っていた中学からも遠い高校で、以前の私を知る人はいない。
そんなわけで私は過去を封印して、それなりに楽しい高校生活を送っていたものの、今回ついつい手が、いや足が出てしまったのだった。そして、白綾君に見られてしまい、黙っていてもらう代わりに――膝枕を要求されたのだった。



