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 喧嘩上等、な奴らが多いこの学校だけど、全員が全員そうではない。中には腕っ節に自信がない生徒もいて、肩身の狭い思いをしている。そんな生徒が一人、カツアゲにあってるのを私は目撃してしまったのだ。
 ガタイのいいスポーツ刈の上級生に、校舎の隅っこで凄まれていた。

「頼んだものを渡せって言ってんだよぉ」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい。用意できてなくて……」
「ああ? お前ができるって言ったんだろ!」

 上級生はメガネをかけた生徒の胸ぐらをつかんで怒鳴っていた。

 ――弱いものイジメって、大嫌い。

 暴力で解決しようとする人って、モラルうんぬんの前にダサいって気がつかないのかな?

「一発くらい痛い目に遭えば、もっと真剣に用意しようっていう気になるかもな」

 拳を振り上げたのを見て、私はそちらへ駆け出すと、上級生の膝裏に蹴りを入れた。

「うおっ」

 あ、ヤバい。振り返って顔を見られたら――喧嘩になるかも。

 いきなり攻撃を受けた上級生は条件反射でこちらに殴りかかってくるが、私は上体をかがめていたので空振りに終わった。そのままタックルして吹っ飛ばす。

 まさか気絶させるわけにもいかないし、やっぱり顔を見られちゃうかな……と思ったその時。横から出てきた誰かが起き上がった上級生を投げ飛ばし、ノックアウトしてしまった。

 色素の薄い髪をした長身のその男子は、倒れた上級生の状態を確かめている。

「……外傷なし。数分で目が覚めそうだな。コイツもそんなにヤワじゃないし。暴力沙汰でボクシング部停部になって荒れてんの、マジでダサいわ」

 その男子は、メガネの生徒に「コイツに何か言われたら、白綾の仕業だって言っといて」と言った。
 首にヘッドホンをかけた彼――白綾美咲は、食べかけの飴を音を立てて噛み砕き、私の方ににやりと笑いかけてきた。

「うちの学校に、喧嘩の強い女子がいたとはね」