だから、よくないってば!

 信じられないことに、白綾君はそのままガチ寝をし始めた。間違いなく寝息を立てている。
 嘘でしょ?! 勘弁してよ! ……あ、顔が小さいからか頭もあまり重くないんだな……。睫毛、長……、私より全然長い……。

(じゃなくて!!)

 こうなったら貧乏揺すりでもして落としてやろうかな?
 そんなイジワルなことも考えたものの実行できず、時は刻々と過ぎていく。そうして数十分が経った後、白綾君は目を覚まして起き上がると、欠伸をした。

「膝枕の『初めて』を俺に捧げてくれてありがと」

 言い方ーーーっ!!

 私が握りしめた拳をわなわなさせているのを見て、白綾君は面白そうに目を細めていた。

 そろそろ休み時間が終わる。首を回した白綾君は立ち上がり、「教室戻ろ」と私の手を引っ張って立たせた。何だこれ? 付き合ってるみたいじゃない? 付き合ってませんけど?
 歩き出す白綾君についてはいかず、私は声をかけた。

「あの……、今日の、こと」

 白綾君は振り向いて、首を傾げる。

「俺の言うこと聞いてくれたからね。秘密にしててあげる」

 そう言い置いて、彼は先に行ってしまった。

 畑の近くに一人残された私は、顔を歪めたまま立ち尽くし、チャイムの音を聞いている。
 秘密というのは、膝枕のことじゃない。その前の、私の知られたくない出来事のことだ――。