◇
「小春」
白綾君が腕を持ち上げ、私達は見つめ合う形となった。
「俺と付き合わない?」
どうして今日は唐突に、二度も告白されなくちゃならないんだろう。
こんな美人な男子が、どうしてお転婆で喧嘩三昧だった私なんかを好きになるんだろう。
私は逃げるように起き上がり、「それは、あの、何で急にそういう」と言いかけた。
が、唇に柔らかいものが押し当てられて言葉が途切れる。
白綾君の唇が、私の唇に触れていた。
「ねえ、付き合おうよ、小春」
白綾君って、本当に何を考えてるかわからない。顔を真っ赤にした私は、微笑む美青年をただ見つめていた。
「キス、初めて?」
反応がないのを肯定だと捉えたのか、彼は頬を差し出した。
「怒ったなら殴っていいよ。小春のパンチがどれくらいのもんか、くらってみたいから」
そんな綺麗な顔、殴られるはずないじゃん。とは思ったが、彼は顔の良さを褒められるのを嫌っているから口には出せない。
私は小刻みに首を振った。心臓がバクバクしていて、顔が熱い。この感情が何なのか、自分でもまだわからずにいるけれど、少なくとも怒りではないと思う。
「で? 膝枕もキスもした間柄だし。付き合ってみない?」
「少し……考えさせてください……」
くすっと白綾君は笑い声をもらす。
「俺から逃げられるなんて思うなよ」
それって脅し?
少しの猶予をもらい、私は途方に暮れる。
「好きだよ、小春。ずっと、好きだった」
白綾君の静かな告白に、私は黙ってうつむくしかなかった。拳で解決できないことって、世の中にはたくさんある。
私は胸を押さえて思う。
恋をしたことなんてないけれど、多分きっと、これがときめきってやつなんだろう、と。



