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どうしても教室に戻る気になれなくて、私は授業をサボることにした。紗菜に連絡して、具合が悪くて保健室に向かったことにしてもらう。
私のサボりに白綾君も付き合ってついてきた。白綾君はまあ、こういう生徒だから、授業に顔を出さないのはさほど珍しくもなくて先生も気にしない。
私達は自然とあの、膝枕をした階段のそばまでやって来ていた。
私はうつむいたまま立っていて、白綾君が階段に座る。そして彼は、自分の膝をぽんぽんと叩いた。
「ん。膝枕してあげる」
……何で。何で私が、白綾君に膝枕してもらわなくちゃなんないの。
そう思うのに足は動いて、おそるおそる彼の隣に腰かけていた。そして横になり、白綾君の膝に頭をのせる。
「どう? 結構よくない? 膝枕って」
「……わかんないよ……」
あおりのアングルはブスに見えがちっていうのが定説だけど、白綾君は下から見ても美人だった。見上げるのが恥ずかしくて、私は腕で自分の目を覆う。
そのまま沈黙の時間が過ぎた。
「言っただろ。お人好しは損するって」
白綾君の声が降ってくる。
もしかして、気がついているのかな。私が落ち込んでるってこと。目には涙が少し滲んでるってこと。
私は強いつもりだった。弱い人の味方でいたいって思っていた。誰かを助けたら、感謝されるのが当たり前だと思ってた。
だからああやって野田君に迫られたのが、少し、ショックだったんだ。恩をあだで返されるって、本当にあるんだなって。
「小春は優しすぎるんだよ」
「白綾君だって優しいでしょ……」
「野田をボコボコにしなかったから? いやだって、あそこで殴ったら小春はもっと落ち込んでたんじゃない?」
そうかもしれない。やっぱり野田君に同情して、そんなことしないでって白綾君に頼み込んだはずだ。
白綾君は困ったら自分を頼ればいい、と報酬つきではあるけど野田君に提案した。もし私に何かしたら、白綾君が黙っていないと野田君も思い知っただろう。野田君が本当に白綾君を頼るかはともかく、白綾君は彼に温情を見せたし、私が傷つかないようにしてくれた。
「別に、優しすぎるのが悪いなんて言わない。今度から俺を頼ったらいいよ。今までたくさん頑張ってきたんだろ」
白綾君の、存外大きい手が私の頭を優しく撫でる。
白綾君が、どんな人なのか、まだよくわからない。私達は言葉を交わすようになったばかりだし、人となりを知るには、もう少し時間がかかりそうだ。
「私は、何買ってあげればいいの? 金箔入りのチョコとか……?」
「小春はタダだよ。膝枕してくれたから」
どうしてそんなに優しくしてくれるんだろう。私は君に、何もしてあげてないのに。
膝枕って、確かにちょっといいかもしれない。
人の温もりが、伝わってくる。
鼻をすすった私はどうしても腕がどけられなくて、いつまでも白綾君と目が合わせられなかった。



