記事屋 -article club-

「怪しすぎるよー……。」


 朝美は階段の一番下に座り込んで、思わずそう呟いた。

 勢いで飛び出してきたのはいいものの、明らかにあの場の空気を乱したはずだ。

 そのことを考えると、裕美への罪悪感に徐々にさいなまれ始め、朝美は自己嫌悪に陥る。

 見知らぬ場所は苦手。
 人見知り。
 話をふられると動揺する。
 周囲の空気を乱したくない。

 これが朝美だった。

 目の前をまばらに通り過ぎる車に時折目をやりながら、朝美はため息ばかりついていた。















「―――――どうかした?」














「?!」


 突然かけられた声によって、朝美は現実世界に引き戻された。


「な、な、……!」


 思わず飛び退いた。

 先程まで朝美が座っていた一段上に、あの男の姿があった。


「そんなに驚かなくてもいいじゃん。」


 そう言って彼はまっすぐ朝美を見つめた。

 朝美は思わずたじろぐ。

 さっきまで安楽椅子に座っていたその男は、懐から煙草を取り出し、火をつけた。

 あっけにとられて男・和也を見つめる朝美に、


「吸う?」


と、彼は尋ねた。


「す、吸いません!」


 慌てて否定する朝美に、「あ、そ。」と愛想のない返事を返す和也。

 事態の急展開についていけない朝美と、それをよそに白い息をゆっくりと吐き出す和也。

 2人の間に妙な沈黙が流れる。

 それを破ったのは、和也だった。








「あんた、ここが何の店か知ってんの?」








「え……。」


 朝美のカバンを抱きかかえる力が強くなる。


「ここは記事屋。言っておくが、ここは楽しい遊び場でも、真面目に働くための職場でもない。











―――他人の人生を、ぶっ壊す場所だ。」







 和也の言葉に、朝美は息を飲んだ。