『記事屋』


 そんな店、聞いたことない。





 朝美の心は疑問符と不信感でいっぱいだった。

 隣では裕美が楽しそうに、向かい側のソファーに座る男と話をしている。

 その男の背後には、回転椅子に腰かけた男が腕組みして陣取っている。

 しかしソファーに座る男とは対照的で、瞼を閉じ、話を聞いているのか、はたまた寝ているのか、朝美からはさっぱりわからない。


「………でさー、」



 政治家がどうのこうの。



 昨日電車でどうのこうの。



 裕美が一体何を話しているのかわからないまま、笑顔の男は一言、


「では、手配いたします。」


 そう言って、裕美が差し出した5000円札を受け取った。


「本日はお友達もご一緒なのですね。」


 突然自分のことが話題に出され、朝美はハッと我に帰った。


「そうなんですよー。この子にも教えてあげようと思って!
 ね、朝美。」


「う、うん…。」


 訳もわからず頷く朝美に、男は笑顔で「そうですか。」と言った。

 彼は朝美から見ても確実にかっこいい部類に入る人間だが、ずっと浮かべたままの笑顔が朝美には少しだけ怖かった。











「……わ、私、外で待ってる!」



 場の空気に耐えられなくなった朝美はカバンを握りしめ、裕美と男の会話を遮って階段へと駆け出した。

 ドアを開けるとすぐに一直線の階段となっているそのビルを、いつの間にか小走りになった足取りで朝美は駆け降りていった。

 それを片目を開けて見ていた男がひとり………。