お世辞にも会社とは言えないそこには、アンティーク調の茶色のテーブルと、それを挟むように備え付けられた黒革のソファーが部屋の中央に置かれていた。

 ソファーのすぐ近くには「社長の机」と言いたげなデスクと安楽椅子が置かれ、一応は事務所の役割を果たせるまでになっていた。






「――あなたの記事の書き方が悪かったのでは?」


 大和はコーヒーをすすりながら唐突に、静かに言い放った。


「……」


 和也の動きが止まる。

彼には返す言葉がない。


「“書く”のは私、あなたは“撒(ま)く”専門でしょう。

 ま、これであなたも子どもみたいに

『俺が書くー!』

なんて言わなくて済みますからいいですけど。」


 大和は楽しそうだ。

 一方、和也は机に突っ伏して言葉を発しなかった。

 しばらく沈黙が場を支配し、隣接する道路を走る車の音が部屋に響いていた。

 コーヒーを飲みほした大和がソファーから立ち上がろうとした時、突然和也がむくっと立ち上がった。



「俺は…俺は…」



 にこにこしながら見守る大和。






「俺は……









電話の回線が切れてるんだと思う!!」


 そう言って机のダイヤル式黒電話をいじり始めた。


「……。そうですか。お気の済むまでどうぞ。」

 大和は笑顔でキッチンに向かった。

 彼の言葉には常に、悪意も皮肉も含まれていない。




「きっと、きっと、回線が……。」




 大和がキッチンから和也の様子にちらりと目をやった時に、それは『鳴った』のだった。












――――――チリリリリリン











――――――チリリリリリン











――――――チリリリリリン










 2人は思わず顔を見合わせた。