私、霧島(きりしま) 明日香(あすか)は世界は意味不明で溢れてると思っている。
 科学的とか論理的とか、そういう事じゃなくて、人間の根本が意味不明だ。人間は他の生き物が本能と簡単な損得で物事を考えているのとは違って、自分で自分の運命を左右する決断をすることが出来る。
 それは「死」を選ぶこと。辛いと思ったらすぐにでも死ねるし、嫌いな奴がいるならすぐに殺せる。
 けれど皆それはしない。毎日学校が辛いとか、アイツがうざいとか、うんぬんかんぬん言ってるのに誰も行動にしようとはしない。それが私には意味不明に思える。
 かく言う私は毎日が辛いとも思わないし、誰が嫌いとか好きとかはない。こういうのを感情が欠如していると言うのかもしれないけれど、特段それで困ったことはないし困ることも無い。
 ああ、でも一つ面倒くさいことがあるかもしれない。それは……

「ねえ、明日香(あすか)ちゃんって好きな男の子いるの?」

 女子特有の恋バナについていけないことだろうか。

「いないよ」

「えーじゃあ今まで好きになった人とかは?」

「いない」

「付き合った人とかも?」

「いない」

「憧れの先輩とか」

「いない」

「…ちょっといいなって思った人も…?」

「いない」

「…ロボット?」

「人間」

 と、こんなに無愛想な私に根気良く話しかけてくるのは小内(おさない) 加奈子(かなこ)という女の子。
 色が綺麗に抜けた長い茶髪に大きな目。細くてスラッとした身体。性格も明るく誰にでも笑みを振りまく。所謂、一軍女子だ。
 そんな彼女は私が2年生になって初めて出来た友人?だ。近くの席に座っているからという理由で話しかけられ、今ではこの有様である。

「じゃあさじゃあさ、告白されたことはあるでしょ。明日香ちゃん顔いいから」

「ない」

「うっそ!!」

「あのね。男は単純だけど馬鹿じゃないの。顔が良くても余りに静かだと誰も話しかけてこないんだよ」

「そ、そうなんだ。んーでも、誰も好きになったことのない人って私見たことないな」

「同じような人は同じような人に群がるから。モテる加奈子にはモテる女子が集まるんだよ」

「えへへ~モテるって言われると照れるなぁ~」

 小さく頬を赤らめたその顔はまさに物語のお姫様だと思った。
 その後少し彼女と話し(一方的に話をされた)、チャイムが鳴った。それから二つの授業を終え私は帰る準備をする。

「ねえ、そういえばだけど明日香ちゃんってどこら辺に住んでるの?」

「電車に乗って1時間くらいの所」

「え、ここらへんじゃないの?」

「うん」

「なんで?」

「何となく」

「えー教えてよー」

 本当に何となくなのだから教えるも何もない。
 私は彼女と途中で別れて、駅までの道を歩いていた。
 その時だった

「アイツにしようか」

 背後から男の声がした。振り返るとそこには3人の大柄な男の人がいた。

「今日はこれで決定だな」

「ああ、顔もいいし、胸もデカい」

「だ、誰…」

「誰?君が知る必要はないんだよ。これから俺たちと遊んでもらうからねぇ」

 一人の男は私の腕をしっかり掴んだ。

「離して」

 男たちに私の声は聞こえてないのか、気持ち悪い笑みと笑い声を出しながら、私を裏路地まで引っ張った。
 私は掴まれた腕を離され、思い切り床に叩きつけられた。

「おいおい、こんなところでいいのかよ。いつもみたいに部屋まで連れ込まなくて」

「もう一週間だぞ。一週間も我慢したんだ。良いだろ少しくらい」

「だな。じゃあ最初は俺が頂くぜ」

 一人の男が私の服を掴み剥がした。無理やり下着姿にさせられ、これから私がどうなるかはすぐ予想できた。

「あ…」

 声が出なかった。助けが呼べない。
 脚が動かなかった。逃げることが出来ない。
 腕が動かなかった。抵抗することさえ出来なかった。
 これから私は彼らに(もてあそ)ばれ、証拠隠滅のために山にでも捨てられるのかもしれない。"死"の文字がハッキリ見えたのは初めてだった。私はこの後私に起きる未来を見たくなくて目を瞑ることしかできなかった。
 その時、男の動揺するような声と、風切り音のような音が聞こえ、それとほぼ同時に顔に何か生温くて鉄臭いものが飛び散って来た。

「お前らか、ウチのシマで女襲ってるってのは」

 地と天が揺れるようなほど怒りの籠った低い男の人の声が聞こえた。
 その声はさっきの3人とは違う声だったけれど、その声を最後に私は一度に多くの情報とストレスを受けた所為で、気を失ってしまった。