その独占欲に、たじたじ




目を潤ませて見上げた先には、模試に行ったはずの翔真が立っている。
優香「えっ…… 何で? 模試は?」
嫌そうな顔をする優香に対して、不機嫌になる翔真。
翔真が頭を掻きながら適当な嘘をつく。
翔真「来週だったわ……」
その嘘をすっかり信じ込む優香が、あからさまにガッカリした顔をする。
翔真が優香の頬をつねる。
翔真「何だその顔 ムカつくな」
優香「痛い痛い! ホント最低 私は滝本くんと楽しむから どうぞ一人で水族館を満喫して下さい」
笑いながら嫌味を込めて言う。



そこへスタイル抜群の美女が現れ、翔真の腕に可愛らしく抱きつく。
莉沙「翔真 ごめんね 待った?」
優香(誰……?)
T「中川莉沙 15歳 翔真の彼女?」

莉沙が優香の存在に気がついてニコッと微笑み、翔真に尋ねる。
莉沙「翔真 この小さくて可愛い子は……? 分かった! 妹ちゃんでしょ?」
優香(妹? いくらなんだって それは失礼でしょ?)
翔真「はぁ? ただの隣人だ バカ 行くぞ」
翔真が呆れたように言って、さっさと館内に入って行く。
莉沙「あぁ! ただの隣人(・・・・・)さんね じゃあ 私たちはこれで」
優香を見て薄笑いする莉沙が、翔真を追いかけて小走りして行く。
その後ろ姿を見つめる優香。



優香(背高くて 脚が細くて長い 髪も艶々でキレイだし 顔も整ってる…… 美男美女だ)
優香の胸がズキンズキンと痛み始める。
優香(もう帰りたい……)
じんわり涙ぐむ。



そこへ大祐が走ってくる。
大祐「ごめん 完全に寝坊した 今日が楽しみ過ぎて 昨日寝れなくて……」
変な言い訳をせずに、正直に話す大祐に対してつい笑ってしまう優香。
大祐「恥ずかしいから そんな笑うなよ……」
優香「ごめんね 可笑しくて…… ありがとう 笑わせてくれて」



優香が大祐と共に水族館の中へ入る。
大祐の横を歩きながら思う。
優香(さっきまで胸がズキズキしてたのに 滝本くんのお陰で 今はこんなに笑えてる)
優香(滝本くんがそばに居てくれて 良かった)
魚を見てはしゃぐ大祐、そんな大祐を見つめて、優香が微笑む。
優香(滝本くんと居ると 嫌なことも忘れちゃう 不思議だな)




タイトル挿入『その独占欲に、たじたじ』




〇水族館内、サメの展示コーナー

大祐「サメでけぇ! 喰われそう…… 見て! あっちに変な魚いる! ヤバい 超楽しい」
興奮して今にも走り出しそうな大祐。
そんな大祐を見てクスクス笑う優香。
照れたように俯く大祐が、優香の手を握る。
優香「……ッ!」
驚いたように大祐を見つめる。
大祐「俺が迷子になりそうだから ちゃんと捕まえといて……」
優香が微笑む。
優香「確かに迷子になりそう…… 捕まえておくね」
大祐が顔を赤らめ、俯いて歩く。



〇マナティーの展示コーナー

突然、優香が足を止め、両手で口を隠すように覆う。
優香(可愛い…… 何だこの癒し生物は)
大祐「癒されるわぁ」
優香「だよね!」
マナティーを見つめながら微笑む優香を見つめて大祐が呟く。
大祐「……マジで可愛い」
優香が大祐の方を見てニッコリ笑う。
大祐が優香に顔を近づける。
ちょうどその時、大祐の背後から子供の声が聞こえてくる。
大祐が慌てて取り繕う。
優香は大祐が何をしたかったのかよく分かっていない様子。



◯イルカの展示コーナー

大祐にが優香の手を引いてエスコートしながらイルカの展示コーナーへ向かって歩く。
大祐が腕時計を気にし始める。
それに気がついた優香が首を傾げる。
優香(何だろう?)
大祐「……そろそろ行くか!」
優香「どこに?」
大祐がニコッと笑ってカッパを差し出す。
大祐「洗礼を受けに行くんだよ!」
太陽のような明るい笑顔を見せる。
優香「洗礼って言わないでしょ 変なの」
大祐「えぇ! 洗礼だろ?」
驚いた顔をする大祐を見て優香がまた笑いだす。



〇イルカショーの会場

イルカショーの会場には既に多くの人が集まっている。
カッパを着た二人が最前列のベンチに腰掛ける。
大祐「ここ めちゃくちゃ水かかるらしいけど 大丈夫?」
優香「ちょっと! それ今言う⁉ もうカッパ着ちゃったし……」
笑いながら大祐の腕をバシッと叩く優香。
大祐が腕を擦りながらニコニコして優香に言う。
大祐「めちゃくちゃ怪力じゃん 腕折れたわ」
優香「ねぇ やめてよ!」
揶揄う大祐に可愛らしく言い返す優香。



そんな二人のやり取りを何列か後ろから見ていた莉沙が笑いながら言う。
莉沙「あの二人 楽しそうだね」
翔真「……」
つまらなそうな顔で腕と足を組む翔真。
そんな翔真の姿を見た莉沙が、翔真の頬にネイルを突き刺す。
翔真「うざい やめろ」
本気で嫌がる翔真を莉沙が頬を膨らまして睨む。
莉沙「この私と居るんだから ちょっとは楽しそうな顔しなさいよ」
翔真「はぁ?」
チラッと莉沙を見た後、すぐに無表情になって楽しげな最前列の二人を見つめる。



ショーが開始され、イルカたちが豪快なジャンプを披露する。
ザッブーン! バッシャーン!
水を被りまくる優香と大祐。
想像以上に水がかかるため、大祐が心配そうな顔で優香を見る。
優香「キャー アハハハ!」
大祐(めっちゃ笑ってる…… 普通嫌がるよな? 変な奴)
楽しそうに笑う優香を見て、大祐も自然と笑顔になる。
ずぶ濡れの優香と大祐が見つめ合って笑う。



それを見る翔真がギュッと握りこぶしをつくる。
翔真の苛立ちを感じ取る莉沙が優香を見て嫌悪感を抱く。
莉沙(あの子 嫌いだわ)




イルカショーが終了し、カッパを脱ぐ二人。
優香がバッグからハンカチを取り出して大祐の顔に当てる。
優香「ビショビショになっちゃったね…… 風邪ひかないでよ」
ずぶ濡れで笑いながら言う優香にドキドキする大祐。
大祐「……あのさ」
優香「ん?」




大祐がハッとする。そして着ていた上着を脱いで優香に羽織らせる。
優香「寒くないから大丈夫だよ?」
不思議そうな顔をする優香に大祐が微妙な顔をする。
ゆっくり顔を近づけ、優香の耳元で小声で話す。
大祐「透けてる…… 他の奴らに見られたくないから……」
優香が驚いた顔で自身の胸元を見て、下着が透けていることに初めて気がつく。
顔を赤らめながら大祐を見ると、大祐も頬を赤らめて手で口を覆っている。
優香「お見苦しいものを……」
そう呟いて俯く優香に対し、大祐が焦ったように言う。
大祐「全然見苦しくなんて…… 本当はもっと見たい…… って俺 めっちゃ変態だよな」
苦笑いしながら頭を掻く大祐。
優香「確かに…… めちゃくちゃ変態だ」
また笑い合う優香と大祐。



〇売店前の通路

優香と大祐が手を繋いで歩いていると、大祐が突然足を止める。
優香(何だろう?)
大祐「ごめん ちょっとここで待ってて……」
そう言って売店に入って行く。
優香(何か欲しいものでもあったのかな……? 一緒に選んだりするのも楽しいのに)




少し寂しい気持ちになり、俯いていると、莉沙の声が聞こえてくる。
莉沙「髪の毛濡れててヤバいよ!」
優香が驚いた顔で莉沙を見る。
莉沙「ていうか あんなダサいカッパ よく着られたね 私なら絶対無理だわ」
莉沙「よっぽど彼のことが好きなのか…… 隣人さんのセンスが悪いのか……」
あざ笑うように莉沙が言う。
優香「楽しかったもん…… あのカッパがあったお陰で そこまで濡れなかったし……」
口を尖らせて言い返す優香が気に食わない莉沙。
莉沙「彼の上着なんか着ちゃって とっても仲良しね 彼氏も頭悪そうだし お似合いだよ」
優香が目を潤ませながら俯く。そんな優香を見た翔真が冷たい声で莉沙に言う。
翔真「おい もうやめろよ」
莉沙が不貞腐れたような顔をする。
翔真が優香を見ながら話し始める。
翔真「一人なら一緒に歩いてやっても……」
翔真が話している途中に優香が話し始める。
優香「……滝本くんのことバカにしないでよ」
翔真と莉沙を睨む。
莉沙「何その顔? 超ムカつくんだけど……」
舌打ちする莉沙に優香が言う。
優香「そっちだってお似合いだよ 二人とも性悪で ピッタリじゃん」
莉沙「何ですって!」
莉沙が声を荒げながら優香に近づき、手を振り上げる。
優香がギュッと目を閉じる。