〇昼休み、学校の教室
いつも通り彩音と食事をする優香が驚いた顔をする。
優香「え……」
彩音「だから 私 翔真くんのこと好きになったの」
彩音「優香は翔真くんのこと 忘れるんでしょ? だったら良いよね?」
可愛らしく棒付きキャンディを舐める彩音が優香に告白する。
優香(そうか そうだよね 昨日べったりくっついてたし……)
優香(何だ この胸がざわざわ……)
呆然とする優香に、彩音がヒソヒソ話をするように言う。
彩音「たっきーが 優香のこと『すっげぇ好き』って昨日言ってたよ 付き合っちゃえば?」
優香(滝本くん 優しいし 一緒に居て楽しいけど……)
彩音が水族館のチケットを二枚、優香に差し出す。
優香(ん?)
不思議そうな顔をする優香に彩音が言う。
彩音「知り合いからもらったんだけど 私 まだ翔真くんを誘う勇気ないし…… あげるよ」
優香がチケットを受け取る。
そこへ、ちょうどよく大祐が現れる。
また優香の隣にドカッと腰掛け、優香の肩にもたれかかる大祐。
大祐「日向 腹減ったよ 弁当恵んでくれぇ……」
優香「私 滝本くんの飼育係じゃないんだけど……」
困る優香に大祐が揶揄うように言う。
大祐「じゃあ 俺の嫁になって」
優香(嫁…… 結婚 子供 エッチ……)
昨日の翔真とのエッチな想像を思い出し、顔を真っ赤にする優香。
優香「ばっ バカじゃないの! 何でいきなり嫁? 普通その前に彼女でしょ!」
焦った様子の優香が大祐を見つめる。
大祐がニコッと笑って言う。
大祐「じゃあ 彼女になってよ」
優香「それは……」
目が泳ぐ優香。
大祐がそんな優香をジーッと見つめる。
彩音「さっき優香に 水族館のチケットあげたから 今週末二人で行ったら?」
スマホをいじくりながら彩音が大祐に言う。
大祐が目を輝かせ、優香に急接近して問う。
大祐「マジで? 行こう! いつ行く?」
距離の近さに驚く優香が、大祐から少し離れる。
優香「うっ…… うーん 土曜とか?」
適当に答える優香。
大祐「土曜ね よっしゃー!」
子供のように喜ぶ大祐を見て、優香が少し申し訳ない気持ちになる。
タイトル挿入『その独占欲に、たじたじ』
〇夕方、自宅のリビング
疲労感たっぷりの優香がソファに倒れ込む。
優香(彩音…… 本気なのかな? 滝本くんとデートの約束しちゃったし…… これで良いんだ たぶん)
ガチャッ!
誰かが玄関の鍵を開ける音が聞こえてきた。
優香(お母さん? 翔真? どちらにせよ面倒だな このまま寝たふりしとくか……)
目を瞑る優香の元にある人物がゆっくり近づく。
ドキン、ドキン
優香の胸が高鳴り始める。
その人物が優香の髪を弄ぶように触れる。
そして頬に優しく触れ、耳元で囁く。
翔真「弁当 美味かった」
優香(……ッ!)
翔真の吐息が優香の耳を熱くする。
優香(早く どっか行ってよ……)
優香ナレーション「どうしてこんなこと……」
優香ナレーション「どうか このドキドキが 伝わりませんように……」
お弁当をキッチンに置き、リビングから出るときに翔真が優香をチラッと見て冷笑する。
翔真(バレてんだよ バーカ)
階段を上っていく音を聞いて、パッと目を開ける優香。
胸を押さえながら荒くなった息を落ち着かせる。
優香(破壊力 ヤバすぎる‼ まずい まずい 非常にまずい! 急いで彼氏を作らないと……)
翔真にドキドキしてしまう自分を戒めるように、頬をつまんで引っ張る。
優香「しっかりしろ 私は前に進むんだ もう私の初恋は終わった」
〇夕飯時、ダイニング
佳代が優香と翔真に水族館のチケットを差し出す。
優香がその見覚えのあるチケットを食い入るように見る。
優香(こっ これは……)
お箸を持つ優香の手が震える。
佳代「お友達からもらったのよ 次の土曜日 二人で行って来たら?」
ニコニコ微笑む佳代に対して優香が作り笑いを見せる。
翔真は無表情。
優香(土曜って…… 絶対無理じゃん)
嫌な汗が優香の背中を流れ落ちる。
優香「その日は……」
翔真「その日 模試だから行けない」
淡々と答える翔真。
優香が翔真の方を見てにこやかになる。
優香(マジで⁉︎ 模試あんの? ラッキー)
優香の反応を見て、翔真が不機嫌な顔をする。
翔真「ずいぶん嬉しそうだな」
優香「えっ⁉ そんなことないよ 行けなくて残念だな アハハ」
笑って誤魔化す。
〇食後、優香の部屋の前
大祐とのデートの件を、何が何でも隠したい優香。
優香(危なかった とりあえず誤魔化せた……)
ため息をつきながらドアノブに手を伸ばす。
すぐ背後から翔真の冷たい声が聞こえる。
翔真「土曜日 滝本とデートするんだろ?」
ビクッッ!とする優香。
その反応を見た翔真が鼻で笑う。
翔真「分かりやす」
優香(何で…… 何でバレてんの?)
慎重に振り向くと——
優香のすぐ近くに翔真が立っている。
優香(近ッ!)
ドキン、ドキン、ドキン——
優香(早く落ち着いてよ……)
胸元を両手でギュッと掴み、祈る。
翔真「まぁ どうでも良いけど」
急に興味を失ったように、優香から離れて隣の部屋に入って行く翔真。
優香(どうでも良いんだ…… じゃあ何で……)
夕方耳元で囁かれたことを思い出して、また耳が熱くなる。
◯優香の部屋、ベッドの上
寝転がりながら思う。
優香(土曜のデートで 滝本くんと付き合うことになったりするのかな……)
◯決戦当日、9時、リビング
可愛く着飾った優香が部屋からてできてソワソワ部屋中を歩き回る。
ソファで寛ぐ佳代が、そんな優香を気にする。
佳代「あら? やっぱり翔ちゃんと 行くことにしたの?」
優香「いや 友達とだよ!」
佳代が目を細める。
佳代「ふーん 男友達ね」
優香「……ッ! 誰も男友達なんて言ってない!」
佳代「だって女の子だったら そんなにソワソワしないでしょ?」
佳代の方が上手だった。
ソファに腰掛ける優香が眉間にシワを寄せる。
佳代が首を傾げる。
佳代「翔ちゃんに 罪悪感抱いてるの?」
優香「何で私があいつに? そんなんじゃ……」
佳代「だったら 楽しんできなさいよ そんな顔じゃ相手に失礼よ」
優香(そっか そうだよね……)
佳代が煽るように呟く。
佳代「じゃあ翔ちゃん あのチケットで 誰と行くのかしら……?」
優香(模試あるんだから行けないでしょ? 終わってから行くのかな? だとしたら同じ学校の人とか……)
考えれば考えるほど気持ちが落ちていく。
優香がいきなり立ち上がり、心に決めたように握りこぶしを胸に当てる。
◯決戦当日、10時、晴天、水族館正面入り口
待ち合わせ場所で大佑を待つ優香。
波の音が聞こえ、風が潮の香りを運んでくる。
突風で目にゴミが入り、涙目になりながら俯く優香の元に誰かが近づいてきて声をかける。
優香(この声……ッ!)
優香が目を潤ませたまま顔を上げ、声の主を見つめる。


